ソムリエ教本の「ルーマニアのワイン」に関する記述での間違いや気になったことについて書いています。
p.382 の概略で 2007年度のルーマニアのワイン用ぶどう栽培面積は209,000haで、ぶどう生産量は1,123,000t、ワイン合計生産量は5,289,000hℓで、その中の約90%がルーマニア国内で消費される。
と書かれていますが、90 % という数値は間違っていると思います。
The Romanian Wine Industry Outlook(PDFファイル) を見るとルーマニアの2006年以降の輸出量は 150,000 hl 以下に落ち込んでいますが、生産量は 5,000,000 hl 前後あるので国内消費量は 97 % ほどになると思います。
主な栽培ぶどう品種の説明で Babeasca Gri バベアスカ・グリの日本語の意味が「グレーの熟女」になっていますが、Băbească は「おばあさん」をあらわしているようです。
また、バベアスカ・グリの栽培面積が わずか4ha
と書かれていますが、Database - Eurostat に載っている2009年のデータではルーマニア全体で 328 ha の栽培面積があるようです。
タマヨアサ・ロマネアスカの説明で 熟期の糖分は240〜300g/ℓで
と書かれていますが出鱈目です。ぶどうが自然に 300 g/l の糖分を得るためには貴腐化するか、熟期を過ぎても収穫せずに樹上で萎びるのを待つ必要があります。(ちなみに、AOC Alsace の Sélection de Grains Nobles に求められるのは Gewurztraminer, Pinot Gris 306 g/l 以上、Riesling, Muscat 276 g/l 以上になります。)
(甘口ワインを除いて)ワインのアルコール度数とぶどうの糖分量が釣り合っていないので、他の品種の熟期の糖分もかなり出鱈目な数値だと思います。(目安として辛口ワインであれば糖 17 g/l がアルコール度数 1 % vol に相当します。)
p.384 のブスアヨカ・デ・ボホティンの説明では栽培面積が 100 ha になっていますが、2009年のデータでは 268 ha の栽培面積があるようです。
ルーマニアで Tămâioasă românească〈タマヨアサ・ロマネアスカ〉と呼ばれるぶどう品種は基本的には Muscat Blanc à Petits Grains で、2009年の栽培面積は 840 ha あるようです。
「原産地と品質に関する法律」として以下のリストがありますが出鱈目です。
- D.O.C.C. = Denumire de Origine Controlata cu trepte de Calitate → D.O.C.よりも高い品質基準を要求され、品質の段階のあるワイン
- D.O.C. = Denunmire de Origine Controlata → 原産地統制名称ワイン(EU法のA.O.P.)
- V.D.O.C. = Vin de calitate superioara cu denumire de origine controlata → 原産地統制名称上質指定ワイン
- I.G. = Indicatie Geografica → 地理的表示ワイン(EU法のI.G.P.)
ぶどうの収穫状況や糖度によって CMD, CT, CIB といった品質段階(trepte de Calitate)の表示を伴う DOC が教本で言う「Denumire de Origine Controlata cu trepte de Calitate」になり、イタリアの DOCG と DOC のような上下関係にあるわけではないので、D.O.C.よりも高い品質基準を要求され
という表現は誤解を招くと思います。
V.D.O.C. も「D.O.C. の上質ワイン」と言っているだけなので、D.O.C. と重複することをわざわざ書く必要はないと思います。
Denunmire de Origine Controlata を原産地統制名称ワイン(EU法のA.O.P.)
としていますが、「原産地統制名称ワイン」と訳すのであれば「Vin cu Denumire de Origine Controlată」とする必要があると思います。また、保護された原産地名称のことをルーマニア語の DOP ではなく、フランス語の AOP であらわす必要があるのでしょうか?
p.385 の「ぶどうの収穫状況に関する法律」では以下のように6つの品質段階(trepte de Calitate)が載っていますが、現在認められているのは CMD, CT, CIB の3つです。
- C.M.D. = Cules la Maturitate Deplina → ぶどうは完熟期に収穫
- C.T. = Cules Tarziu → 完熟期より遅めに収穫されたぶどう
- C.S. = Cules Selectionat → 選別後収穫されたぶどう
- C.I.B. = Cules la Innobilarea Boabelor → 貴腐菌発生後に収穫されたぶどう
- C.S.B. = Cules la Stafidirea Boabelor → レーズン状態で収穫されたぶどう
- C.M.I. = Cules la Maturitate de Innobilare → 貴腐菌が発生し、完熟した後に収穫されたぶどう
CS, CSB, CMI も以前は伝統的なワイン用語として認められていましたが、少なくとも2007年にはEU内では使用できなくなっているようです。
「糖分に関する法律」で甘口ワインの糖分が 50 g/l 以上になっていますが、45 g/l 以上の間違いです。
ルーマニアのワイン産地の説明 7つのワイン生産地方(ルーマニアの地方にほぼ一致)に大きく分けられ、その中に37の認定されているポドゴリエ(Podgorie、生産地域)がある。このポドゴリエが約160の高品質のぶどう栽培地に分けられている。
と書かれ、p.385-388 にポトゴリエの表がありますが、ワイン生産地方(Regiunea viticolă)は8つに分けられています。
Document1 - ordin-179-13-martie-2009(PDFファイル) を読めば教本に載っている表が出鱈目だということが分かると思います。(2011年版教本ではまだ関係ありませんが2011年の修正箇所は Document1 - ordin-134-din-3-iunie-2011(PDFファイル) に)
トランシルヴァニア地方の説明に トランシルヴァニア地方で白ぶどうのみ栽培されている。
と書かれていますが、Pinot Noir〈ピノ・ノワール〉などの黒ぶどう品種も栽培されています。
p.389 の「ルーマニアの原産地統制名称(D.O.C.)ワイン図」には32のワイン産地が載っていますが、20番の Cernatesti チェルナテシティ は DOC なのでしょうか?
概略のワイン用ぶどう栽培面積、ぶどう生産量、ワイン合計生産量が2008年のデータに更新されています。
2012年版教本と同じです。
概略のワイン用ぶどう栽培面積、ぶどう生産量、ワイン合計生産量が2009年のデータに更新されています。
概略のワイン用ぶどう栽培面積(2012年)、ぶどう生産量(2011年)、ワイン合計生産量のデータが更新されていますが、各地方の栽培面積は2011年版教本と同じままです。
WHERE IS THE ROMANIAN WINE INDUSTRY HEADING? に各地方の栽培面積(2012-2013年)が載っていますが、教本のデータと大きな隔たりがあります。
2015年版までの教本で間違っていた「原産地と品質に関する法律」に関する記述が訂正されています。
ただ、新たに加えられた ルーマニアのワイン法はルーマニアの農業省により管理され、欧州連合(EU)の規定より厳しいとされている。
という記述は必要なのでしょうか?国内の規定が EU の規定より厳しいのはあたりまえで、ルーマニアだけでなく EU 加盟国すべてなのですが……。
ワイン生産地方(Regiunea viticolă)の説明が、各地方に位置する IG の説明に変わっています。
p.379 の地図には33の DOC が載っていますが、DOC Adamclisi が載っていません。
Babeasca Neagra の日本語訳が「黒い熟女」から「黒い貴婦人」に変わっていますが、Babeasca Gri は「グレーの熟女」のままです。Babeasca は貴婦人ではないと思いますが……。
2016年版教本と同じです。
プロフィールのぶどう栽培面積とワイン生産量が2015年のデータに更新されています。
農業・農村開発省のぶどう栽培・ワイン醸造のページで、ぶどう栽培面積、ワイン生産量、ぶどう品種ごとの栽培面積などが載っています。
ワイン法、および各ワイン産地の仕様書
posted 2019-02-13, update 2021-12-15
posted by katabami