EUが酒精強化ワインの制度分類において、英語圏で一般的な “Fortified wine” ではなく、あえて “Liqueur wine” を用いたのは、以下の理由によるものです。
“Fortified wine” は、英語圏(とくに英国や米国)で広く使われてきた通俗的な呼称ですが、制度上の用語としては以下の点で問題がありました:
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 範囲が広すぎる | 酒精添加ワイン全般(発酵前・発酵中・発酵後すべて)を含む。 |
| 技術要件が曖昧 | 原料、酒精の種類、添加時期、甘味の残し方などを一切区別しない。 |
| 制度対応に不適 | 表示管理・分析基準・品質管理に対応できない。 |
EUはワイン分類を技術的・制度的に厳密に定義する必要があるため、このようなあいまいな呼称を制度用語とすることは不可能でした。
EU法のワイン分類制度は、旧EC法時代からフランス語起草が基本とされており、多くの用語がフランス制度に依拠しています。
この用語は、英語版のEU法に登場するものの、英語圏で広く使われてきた "Fortified wine" とは制度起源が異なります。
つまり、“Liqueur wine” はフランス語制度に由来する技術用語であり、英語の通俗語を翻訳したものではないのです。
このように、EU法では:
が明確に規定されており、"Fortified wine" のような幅広く曖昧な用語では、この制度的精度に対応できません。
EUはワインに関して「原料・製法・品質・表示の一体管理」を基本原則としており、表示用語と制度基準が直結していなければならないという厳格な思想のもとに制度を設計しています。
“Fortified wine” のように多義的で技術条件を伴わない呼称では、EU法が求める表示基準との整合性が取れないため、制度用語として採用されなかったのです。
はい、その見方は非常に的を射ています。
英語圏で広く使われてきた “Fortified wine” という用語は、一般に「アルコールを添加したワイン全般」を指しますが、その中には発酵前・発酵中・発酵後に添加されたもの、甘口・辛口の違い、アルコール度数の幅、原料の違い(ワイン/果汁/混合物)など、技術的にも制度的にも異なるスタイルがすべて含まれてしまいます。そのため、制度用語として採用するには、まず曖昧な用語の範囲を再定義し、それに明確な技術条件を与える必要がありました。
そのためEUとしては、すでに通俗語として広まりすぎていた “Fortified wine” を整理・修正するよりも、新たな技術的・制度的定義を与えた “Liqueur wine” を公式用語として採用する方が効率的かつ明確だったといえます。
つまり、「“Fortified wine” を制度語として整備する」ことは、広く浸透した語の意味を大きく変えることを意味し、かえって混乱を招きかねなかったのに対し、“Liqueur wine” は制度目的に沿ったかたちで最初から明確に定義できたため、採用がスムーズだったという事情があります。
これは、フランス国内法における「Vin de liqueur」の定義が、EU法上の “Liqueur wine (Vin de liqueur)” とは異なる基準を採用しているためです。
EU規則(Reg. (EU) No 1308/2013)では:
一方で、フランスの一部 AOP では、未発酵果汁を原料とする酒精強化ワインが “Vin de liqueur” として保護されています。
これらは、「未発酵のブドウ果汁(通常は新鮮な搾汁)にコニャック等の酒精を加え、発酵を阻止」して造られる、いわゆる mistelle タイプの酒精強化甘口酒です。
「Vin Doux Naturel(VDN)」という用語が生まれた背景には、19世紀末のフランスにおける酒精強化ワインへの重課税政策と、それに対する地元生産者の抗議運動が深く関係しています。
1870年頃、フランスの財政当局は、アルコールを添加して造られる甘口ワインにも、蒸留酒と同様の高い物品税を課す方針を打ち出しました。この「同列課税」は、蒸留酒を最終製品としてそのまま販売する工業的な酒類と、蒸留酒を一部原料として加えることで造られる地場の甘口ワインとを、税制上で同一に扱うものでした。
これに対し、南フランス(特にラングドック=ルーション地方)の小規模生産者たちは強く反発します。彼らの畑は傾斜地に位置し、収量も少なく(10〜20 hl/ha)、高コストな条件でワインづくりをしており、同じ課税が適用されれば生計が立ち行かなくなるという深刻な問題がありました。
このような状況を受けて、地元選出の議員エマニュエル・アラゴの働きかけにより、1872年に「アラゴ法(loi Arago)」が成立します。この法律では、自然な残糖を保持し、アルコール度数が15〜18%程度の甘口酒精強化ワインを「vins produits naturels(自然産ワイン)」として特別に認め、これらに対しては蒸留酒とは異なる軽課税(または免税)の扱いを与えることとしました。
一方で、それ以外の酒精強化ワイン——たとえば未発酵の果汁に酒精を添加した mistelle タイプや、度数・残糖要件を満たさないワインなど——は、従来どおりの酒精強化ワインとして扱われ、蒸留酒に準じた重課税の対象となりました。
しかし、「vins produits naturels」という表現は法令用語としての明確さに欠け、ラベル表示などの制度化には不十分でした。そこで1898年、「バム法(loi Pams)」によって、正式にラベルに使用可能な呼称として「Vin Doux Naturel」が定められ、同時に課税方式も「添加アルコール分のみ課税」へと一本化されました。これにより、VDNは酒精強化ワインの中でも特別な位置づけを得ることになります。
Mistelle は「未発酵のブドウ果汁に蒸留酒を加えて発酵を阻止する」技法に基づく、醸造学的な用語です。つまり、これは製法の特徴を表す「技術的分類」に過ぎず、制度上の分類(たとえば EUワイン法における「ワイン」や「リキュールワイン」)とは必ずしも一致しません。
たとえば、フランスの Pineau des Charentes や Floc de Gascogne、Macvin du Jura は、いずれも Mistelle 製法によって造られた酒ですが、歴史的・地域的な背景により、AOP(原産地呼称)として正式に認定されています。そのため、EU規則に基づき、特例的に「Liqueur wine(リキュールワイン)」として分類され、ワインとして扱われています。
一方、同じく Mistelle 製法で造られる Ratafia champenois のような製品は、EU法の「ワイン」の定義には該当せず、「蒸留酒を原料とする酒類 : Spirit drink(33. Liqueur)」として分類されています。これは、EUのワイン規則では、原料に使える果汁の状態やアルコール添加の条件が厳密に定められており、すべての Mistelle が自動的にワインに分類されるわけではないためです。
したがって、Mistelle という言葉は、製法の共通点を示すにとどまり、制度的な分類(たとえば「Liqueur wine」や「Spirit drinks」など)を判断する基準とはなりません。Mistelle=ワインではなく、Mistelle のうち、制度要件を満たすものだけが「ワイン」として認められる、というのがEUの制度的枠組みです。
Mistelle(ミステル)はフランス語です。
Mistelle(ミステル)はフランス語の言葉で、「未発酵のブドウ果汁にアルコールを加えて発酵を止めた甘口の酒精強化飲料」を指します。フランスが発祥ですが、同様の飲料は他の国にも存在し、それぞれ異なる名前で呼ばれています。
なお、「Mistelle」はあくまで技術的な呼び方で、EUの制度上のワイン分類(たとえば“Liqueur wine”や“Vin de liqueur”)とは必ずしも一致しません。地理的表示を持つもの(例:Pineau des Charentes、Macvin du Jura)は、例外的に制度内に組み込まれています。
「Quinquina(カンキナ)」はフランス語で、キナの樹皮(キナノキ=Cinchona)を用いた香味酒を指す言葉です。語源はスペイン語の「quina」に由来し、これは南米原産のキナノキの皮を意味します。キナの樹皮には苦味成分であるキニーネが含まれ、抗マラリア薬や健胃剤として歴史的に利用されてきました。
フランスでは19世紀から20世紀初頭にかけて、キニーネを含む薬用酒・食前酒として「Quinquina」と呼ばれる製品群が広く流通しました。代表的な製品としては、Dubonnet(デュボネ)やByrrh(ビール)などがあります。これらは赤ワインをベースに、キニーネやハーブ・スパイス・甘味などを加えて造られます。
これらの Quinquina 製品は、技術的には「アロマタイズド・ワイン(aromatised wine)」に分類されますが、EU制度上は以下の理由により「Vin de liqueur(リキュールワイン)」ではありません:
したがって、Quinquina はフランス語起源の呼称であり、EU制度上は「Vin de liqueur(リキュールワイン)」ではなく、「アロマタイズド・ワイン」に属する製品です。これは地理的表示(GI)制度の下では、現在のところ明確な保護名称を持たない一般カテゴリに含まれます。