ワインエキスパートに教わるワイン入門

スパークリングワインのガス圧とは

スパークリングワインのガス圧について教えてください。
「which has an excess pressure, due to carbon dioxide in solution, of not less than 3 bar」の「excess」とは何ですか?

「スパークリングワインのガス圧」について

EUの制度では、スパークリングワインとは次のように定義されています:

"Sparkling wine" means the product:
(a) which is obtained by first or second alcoholic fermentation:
  • — from fresh grapes,
  • — from grape must, or
  • — from wine;
(b) which, when the container is opened, releases carbon dioxide derived exclusively from fermentation;
(c) which has an excess pressure, due to carbon dioxide in solution, of not less than 3 bar when kept at a temperature of 20 °C in closed containers; and
(d) for which the total alcoholic strength of the cuvées intended for their preparation shall not be less than 8,5 % volume.

密閉容器内において20℃に保たれた状態で、溶存二酸化炭素に起因する超過圧(ゲージ圧)が3バール以上のもの

「Excess pressure(超過圧)」とは?

これは、外の空気の圧力(=大気圧)を基準にして、それを超えた分の圧力を意味します。

つまり:「Excess pressure of 3 bar」= 外の空気より3バール高い圧力が瓶の中にあるという意味です。

なぜこの表現を使うのか?

炭酸ガス(二酸化炭素)は液体に比較的よく溶ける気体であり、超過圧が0バール(=大気圧と同じ圧力)であっても、一定量の炭酸ガスが自然に溶け込んでいることはありますよね。

おっしゃるとおり、液体(ここではワイン)に炭酸ガスが溶け込むかどうかは、気体の圧力と温度によって決まります。
これは「ヘンリーの法則(Henry’s law)」に従います。

超過圧0バール=大気圧下のワインでも、CO₂は溶けている

つまり、「Excess pressure 0」でもCO₂はゼロではない

結論

炭酸ガスがゼロから約1.5 g/Lの間にあれば「超過圧ゼロ」であり、どれだけの炭酸ガスが含まれているかは測定器(圧力計)ではわからないということですか?

圧力計(ゲージ)でわかること、わからないこと

圧力計(ゲージ)が測定するのは:
瓶やタンク内の気相の圧力、つまり「液体と気体の平衡状態にある気体側の圧力」
そして制度上の「Excess pressure(超過圧)」とは:
この圧力が大気圧(=1 bar)よりどれだけ高いかを示す値
(= 実際の瓶内圧力 − 大気圧)

問題の本質:液体中に溶けているCO₂の量(g/L)は、圧力計ではわからない

なぜなら:
  • 液体中にどれだけCO₂が溶けていても、
  • その液体が密閉容器にあっても、
  • その気体が気相として圧力を生じていなければ、
     → 圧力計では「0 bar(=外気と同じ)」と表示されてしまう。
したがって:
CO₂の量が0〜約1.5 g/L程度(≒CO₂分圧0〜1 bar の範囲で理論的に溶けうる量)であっても、圧力計は超過圧0 barとしか示さない。

例で説明

状況 液体中のCO₂量(g/L) 超過圧(圧力計表示) 圧力計でCO₂量がわかるか 備考
純水(理論値) 約 0.0005〜0.001 0 bar 不可 大気圧下(CO₂分圧≈0.0004 bar)で溶けるごく僅かな量(0.5〜1 mg/L程度)。中性・非緩衝性のため保持力は低い。
水道水(地域差あり) 約 0.1〜0.3 0 bar 不可 処理方法やpHにより差。遊離CO₂は少なく、主に炭酸塩として保持。
スティルワイン(自然状態) 約 0.3〜0.6 0 bar 不可 発酵後に自然に残存するCO₂。酸性とアルコールにより比較的高濃度で保持。
ガス感のある白ワイン 約 0.7〜1.4(推定) 0 bar 不可 感覚的には発泡を感じるが、気体として現れず圧力計では検出不可。
密閉タンクまたは瓶内でCO₂発生 約 2.0〜6.0 約 1〜4 bar CO₂が気相に現れ、圧力として現れる。スパークリングワイン製造工程など。

結論(ポイント整理)

超過圧3バールだと何g/Lの二酸化炭素が含まれていることになりますか?

基準:ヘンリーの法則による理論値(C = kH × P)

理論上の溶存CO₂量 CC(g/L)は、以下に基づいて計算されます:

この理論値は、「純粋な平衡条件下でCO₂がどれだけ溶けるか」を表します。

理論値ベースの目安表(12%volワイン、20 °C)

超過圧(bar) 絶対圧(bar) 理論溶存CO₂(g/L) 備考
1 ≈2.013 ≈3.0 純水ベースでは ≈2.9 g/L
2 ≈3.013 ≈4.5
3 ≈4.013 ≈6.0
4 ≈5.013 ≈7.5
5 ≈6.013 ≈9.0
6 ≈7.013 ≈10.5

※ mol→g換算では 1 mol CO₂ ≈ 44.01 g を使用

実測値との乖離とその方向性

要因 方向性 説明
エタノール(12%vol) 溶解性をわずかに低下させる(CO₂分子の親水性とのミスマッチ)
酸(pH 3.0前後) pH低下により CO₂の水和(H₂CO₃化)を促進 → 実質的溶存安定性↑
糖(還元糖) ± 粘性上昇・気泡核阻害により CO₂保持性を高めるが、直接の溶解度は影響小
瓶内撹拌や温度勾配 −〜± 密度・温度差により CO₂分布が不均一になることがあり、実測値にばらつき
瓶詰ヘッドスペース設計 ± 少なすぎると過剰圧発生、多すぎると圧が上がりにくくなる

実測値は理論値に対してどうずれるか?

結論的には:

実務での推奨スタンス

理論値をベースとしたうえで、次のように扱うのが合理的です

圧力帯域 理論値(g/L) 実務上の目安 設計時留意点
1 bar ≈3.0 2.0 ±0.2 セミ・スパークリングワインの下限
3 bar ≈6.0 6.0 ±0.5 スパークリングワインとしての最低要件(3バール)を確実に満たすため、実際の設計ではやや高めの圧力(例:3.2〜3.5バール)に設定するのが一般的です
6 bar ≈10.0 11–12 シャンパーニュでの実測値に相当

ヘッドスペースとの関係

総括

これまで「炭酸ガスの量(g/L)」という観点で質問してきましたが、実務的には所定の超過圧(excess pressure)を得るために、どれだけのショ糖(sucrose)を添加すべきかを考えるのですよね。

はい、その通りです。スパークリングワインの実務設計では、狙った超過圧(たとえば5〜6バール)を得るために、瓶内二次発酵でどれだけの糖分を加えるか(=ティラージュ時のショ糖添加量)を逆算して決定するのが一般的です。

理由と背景:

実務目安:

目標超過圧(ボトル貯蔵温度10〜12 °C) 添加ショ糖量の目安(g/L) 備考
1 bar 約4 g/L ヘンリーの法則と気液平衡を仮定すると理論上は約0.5〜0.7 bar程度と見積もられるが、実務上は「4 g/L ≈ 1 bar」という経験則として用いられる。
5 bar 約20 g/L 瓶内二次発酵で実際に達成可能な超過圧の設計値
6 bar 約24 g/L Champagneなどの高圧設計に対応

これはあくまで理論式と経験則に基づく換算であり、実際には酵母の発酵効率や瓶詰時の条件などを考慮してやや多めに設計されることもあります。

補足:

瓶内のガス圧の話ばかりしてきましたが、抜栓後はどうなるのか説明してください。

抜栓前にボトルの中で起きていること

ボトル内では、液体に溶けたCO₂とコルク直下の気体CO₂がつり合って共存しています。シャンパーニュでは(12 °C付近で)CO₂分圧がおよそ6 barに達し、液中には約11–12 g/LのCO₂が保持されています。これはヘンリーの法則どおり、分圧が高いほど多く溶け込むためです。

抜栓の瞬間に起きること

コルクが抜けると液面上のCO₂分圧が一気に室内レベル(約0.0004 bar)に下がり、ワインは「過飽和」になります。この差が脱気(CO₂放出)を一気に進めます。グラスに注ぐ工程そのものでもCO₂はかなり失われ、注いだ直後の溶存CO₂は概ね6–9 g/L、さらに15分ほどで約3 g/Lまで下がるという計測があります(条件により幅あり)。

泡だけがCO₂の出口ではない

CO₂は「泡として出る」だけでなく、「静かに表面から拡散して出る」経路も大きく、注ぎ方や温度、グラス形状で比率が変わります。泡に注目しがちですが、実際には拡散の寄与が大きいことが実験で示されています。

「泡が続くための最低限」

グラス内の泡の連なり(bead/ペルラージュ)が続くかどうかは、溶存CO₂が「自発的に泡が立ち続けるしきい値」を上回っているかで決まっています。標準的な実験条件(12 °C、1 bar、微小核半径≈5 µm)では、そのしきい値は約2.5 g/Lと見積もられていて、2.5 g/L以上なら連なりを保ちやすく、2.5 g/L未満になると泡が目に見えて弱まっています。

温度・グラス・注ぎ方の影響(体感差の主因)

低い温度ほどCO₂はよく溶け、注いだ直後〜10分のあいだ保持量が約1 g/L多くなる(=持続しやすい)ことが示されています。細身のフルートは、液面上のCO₂濃度が高くなりやすく、鼻への刺激(トリジェミナル)が強く感じられます。ビールのようにグラスを傾けて沿わせて注ぐと、CO₂の喪失を抑えられます。

「口当たり」の違いに直結するポイント

  1. セミ・スパークリング(1–2.5 bar)
    • 初期の溶存CO₂の“貯金”が少ないので、注いでから臨界濃度(≈2.5 g/L)に早く近づきます。結果として刺激は穏やかで「シュワッ」とした当たりは短めになりがちです(目安として20 °Cで2–5 g/L程度という整理もあります)。
  2. 「約3 bar」のスパークリング
    • EUの定義上“スパークリング”の下限が3 bar(20 °C)です。臨界濃度からは十分な余裕がある一方、シャンパーニュほどの圧力・溶存量ではないため、刺激は中庸、ペルラージュの持続も“ほどほど”。提供温度・注ぎ方・グラスで体感差が出やすい帯域です。
  3. シャンパーニュ(多くが5–6 bar)
    • 初期の溶存CO₂が多く、注いだ直後も6–9 g/Lのレンジを保ちやすいため、立ち上がりの刺激(鼻へのピリッとした感覚)とペルラージュの持続が強く感じられます。さらに長期の瓶内熟成で酵母由来のマクロ分子(マンノプロテイン等)が増え、泡沫の安定や口当たりの「クリーミーさ」に寄与します。

要するに、抜栓後は「どれだけ溶存CO₂を貯めてスタートできるか(圧力・温度・スタイル)」と「どれだけ“急がず”失わずに飲めるか(注ぎ方・グラス・温度管理)」の掛け算で口当たりが決まっています。セミ・スパークリング→約3 bar→シャンパーニュの順に、初期の“貯金”が増えるので、刺激と持続が強く・長くなりやすい、という理解で大枠を説明できます。

AOC Crémant d'Alsace の仕様書には「Les vins présentent après dégorgement une surpression de gaz carbonique au moins égale à 4 atmosphères mesurée à la température de 20°C.」とありますが、4バール以上ということですか?

はい、ご質問のフランス語文は、「デゴルジュマン後のワインが、20 °Cにおいて炭酸ガスの超過圧が少なくとも4気圧(4 atm)である」ことを意味します。

では「4 atm」は「4 bar」と同じか?

厳密には:

つまり、ほぼ4 barと見なしてよいのですが、正確には「4 bar超(≒4.05 bar)」です。

法令・技術文脈での換算の慣習

ワインの法規(とくにフランス語圏)では:

よって、文言が「4 atm」とあれば、それは実質的に「超過圧 4 bar」と同義と解釈されます。

一般的なスパークリングワインの仕様書には「炭酸ガスの超過圧(excess pressure)」に関する規定が記載されていますが、Champagne の仕様書ではこれについて一切触れられていないのはなぜですか?

EU法上のカテゴリ「quality sparkling wine」を前提としている

Champagne は EU分類上、「quality sparkling wine(高品質スパークリングワイン)」に該当し、法的に超過圧が3.5バール以上でなければならないと定められています(Regulation (EU) No 1308/2013 付属文書)。

つまり、Champagne のAOC仕様書にわざわざ明記しなくても、この基準を満たすことは制度上当然とされており、仕様書では省略されているのです。

瓶内二次発酵により自然に5〜6バール前後の圧力が達成されるため

Champagne の醸造法(méthode traditionnelle)では、ティラージュ時に糖と酵母を加えることで瓶内で二次発酵が起こり、自然に5〜6バール前後の超過圧が生じます。

これは技術的に確立された設計であり、EUの最低要件(3.5バール)を大きく上回る圧力が得られるため、改めて数値を記載する必要がないとされています。

具体的な圧力水準は生産者団体による実務基準で管理されている

Champagne の生産者団体(Comité Champagne)は、技術資料や研修プログラムの中で、瓶内の超過圧は通常20 °Cで5〜6バールになるように設計することを共有しています。

これらの数値は、シャンパーニュ地方の生産者が共通理解として持っており、公式な仕様書ではなく、運用上の慣行や内部基準として位置づけられています。

Categories of grapevine products でのスパークリングワインに求められる超過圧を載せておきます。

Sparkling wine
3 bar 以上
Quality sparkling wine
3.5 bar 以上
Quality aromatic sparkling wine
3 bar 以上
Aerated sparkling wine
3 bar 以上
Semi-sparkling wine
1-2.5 bar
Aerated semi-sparkling wine
1-2.5 bar

イタリアの Asti (Asti spumante) やフランスの Clairette de Die (méthode ancestrale) が Quality aromatic sparkling wine に該当します。