ワインエキスパートに教わるワイン入門

ゲミシュター・ザッツとは

オーストリアの「ぶどう園面積統計」には、黒ぶどう品種の混植畑(Gemischter Satz)も掲載されています。この場合、赤ワインとして「Gemischter Satz」を名乗ることはできますか。

いいえ。赤ワインに「Gemischter Satz」という表示は使えません。
オーストリアの表示規則では「Gemischter Satz」は白ぶどう(Weißweintrauben)複数品種から造るラントヴァイン/クヴァリテーツヴァインに限られています。ris.bka.gv.at

法的根拠(一次情報)

ワイン表示規則(Weinbezeichnungsverordnung)§1(2) Z2
「Gemischter Satz」は(ウィーン表記のクヴァリテーツヴァインを除き)白ぶどうの複数品種の混醸で造られたラントヴァインまたはクヴァリテーツヴァインに用いる、と定義。
Wiener Gemischter Satz」DAC 規則 §1 Z5
白ワインであることが必須。
さらに付属書では、赤品種の列は経営単位(畑)を分断しないが、最低3品種の要件には数えない/白の品質品種のみ数えると明記。

したがって、赤ぶどうの混植から赤ワインを造ること自体は可能ですが、そのラベルに「Gemischter Satz」を用いることは不可です(別の名称・通常の「Qualitätswein Rot」等として表示する運用になります)。

なぜ統計には「黒ぶどうの混植畑」が出てくるのか

実務メモ

「赤品種の列」とは、どのような意味ですか。Gemischter Satz(混植畑)は、複数品種がランダムに植えられているからこそ、混植畑と呼ばれるのではないのですか。

結論

根拠(一次資料)

実務的な整理

混植(Gemischter Satz)=栽培様式:
畑(=経営単位)内に複数品種が存在することが本質であり、配置は「1本ごとに混在」でも「列ごとに違う品種」でも構いません。重要なのは、要件を満たす白ぶどうの品質品種が最低3品種以上存在し、一緒に収穫・醸造されることです。
「赤品種の列」の扱い:
畑の中に赤品種だけの列があっても、経営単位は連続と見なされます(=混植畑としての成立は維持)。一方で、要件に数える“最低3品種”は白ぶどうの品質品種のみです。

まとめ

横・縦(水平・垂直)に隣接して1つの「経営単位(Bewirtschaftungseinheit)」になる、という規定の意味がよくわかりません。
また、Bewirtschaftungseinheit(経営単位)と「区画」は、どのように違いますか。

用語の枠組み

Bewirtschaftungseinheit(経営単位)
この規則では「ブドウ畑(Weingarten)は1つの経営単位」と定義しています。連続した地番(Grundstücksnummer)で構成され、水平・垂直のどちらに接していても、間に他人の地番が入り込まなければ1つの経営単位として扱います。所有である必要はなく、実際の耕作(管理)に基づいて判断します。
さらに、赤品種だけの列や品質品種でない列は経営単位を分断しません。
区画(一般語)
日本語の「区画」は文脈により指すものが変わりますが、この規則文脈では地籍上の区画=地番(Grundstück)を指すのが適切です。連続する地番の集合が経営単位になり、他人の地番が間に入ると経営単位は中断します。

実務での違い(対応表)

観点 Bewirtschaftungseinheit(経営単位) 区画(=地番/Grundstück)
根拠 栽培・管理の単位(Weingarten ≒ 1単位) 地籍(Kataster)の最小の登記単位
構成 複数の地番をまとめられる(水平/垂直に連続していれば可) 1つの地番ごとに独立
連続性を壊すもの その経営単位に属さない地番が間に入ること
連続性を壊さないもの 赤品種の列/非品質品種の列、一部の植え替え(条件次第)
所有要件 所有でなくても可(賃借・管理実態で判断) 登記上の所有単位

まとめ

地番(Grundstück)とBewirtschaftungseinheit(経営単位)の関係

図の読み方
  • 上段(破線枠):Parcel 201/101/102 は水平・垂直の隣接によって1つの Bewirtschaftungseinheitを形成します(間にfremde Grundstücksnummerがない)。
  • 中央の Parcel 150:fremde Grundstücksnummer(他人の地番)を表し、連続性を中断します。
  • 下段(Parcel 103):Parcel 150 が間にあるため、上段の単位に編入できず、別の Bewirtschaftungseinheitになります。

Parcel 201 : Grüner Veltliner、Parcel 101 : Weißer Riesling、Parcel 102 : Weißer Burgunder のように、地番ごとに異なる品種を植えている場合でも、同一の Bewirtschaftungseinheit(経営単位)に3品種が植えられていれば、Gemischter Satz の要件を満たしますか。

条件つきで「はい」です。

201・101・102 が同一の Bewirtschaftungseinheitに属し、そこに少なくとも3品種(今回の3品種はいずれも白)を植え、該当ロットで共同収穫・共同処理していれば、Wiener Gemischter Satz DACの中核要件を満たします。

併せて満たすべき要件(抜粋)

注記(何を「3品種」と数えるか)

Wiener Gemischter Satz DAC の定義を訳してください。

付属書:ウィーンのブドウ畑(Wiener Weingarten)の定義

「混植畑」と聞くと、多くの人は多数の品種がランダムに植えられた畑を思い浮かべると思います。昔の Gemischter Satzは、現在と何か違っていたのでしょうか。
さらに、列ごとに同一品種を植えるという考え方は昔から存在したのかも調べてください。

要点(先に結論)

歴史と植え方:何が「違って」見えるのか

  1. 19世紀末までの一般像
    • オーストリアやその周辺の多くの伝統的産地では、複数品種を同一畑に植えて共同収穫・共同処理するスタイルが19世紀末ごろまで広く行われていました。
    • ただし“ランダム”では必ずしもない。“一定の配置パターンで植える”ことが説明されています(区画・小群・列など)。
  2. 「列ごとに同一品種」は昔からあったか
    • あったと言えます。たとえば19世紀のシャンパーニュには規則的な列植え(vignes en lignes)の地域が存在しました。一方で、欠株補植の層伏せや寝かせなどの操作を繰り返す地域では列の整然さが崩れ、雑然(en foule)な景観になったことが記録されています。つまり列の概念はあったが、運用次第で“混在・入り乱れ”が生じやすかったのです。
    • フィロキセラ禍後、接ぎ木苗の普及とともに列植え+ワイヤー整枝が標準化し、品種ごとにブロック(区画)を揃える設計が一気に広まりました。これが今日の「単一品種ブロック+機械化向けの列」というスタイルの基礎です。
  3. ウィーンにおける歴史的文脈
    • 19世紀のウィーンでは、他地域が多収系を広げた時代にもリースリング、ロートギプフラー、ヴァイスブルグンダー、トラミナーなどの上級白品種を“混植”し、共同処理していたと公的サイトに明記されています。
    • 第二次大戦後、機械化と高樹・ワイヤー栽培(Drahtkultur/Hochkultur)の普及により、列内で品種が混在する伝統的な混植は相対的に減少し、品種をブロック単位で植える設計が一般化しました。

現在(制度面)の整理

Wiener Gemischter Satz DAC
同一畑に白の品質品種を≥3植え、共同収穫・共同処理。最多≤50%/第3位≥10%、カダスター登録必須。
一般の「Gemischter Satz」(ラントヴァイン/クヴァリテーツヴァイン)
“混植畑そのもの”は法的要件ではなく、複数品種の共同醸造が中心。DACより柔らかい要件です(ただし品質品種の限定など一般規定に従う)。

まとめ(誤解を解くポイント)

なぜ現在、多くの人が「Gemischter Satz(混植)」を『ひとつの畑に複数の白ブドウ品種を混ぜて植えること』と理解しているのでしょうか。そのような誤解が広まった背景や要因を教えてください。

伝統的事例の単純化

教育・広報の便宜的説明

用語の本義と制度上の定義の乖離