ワインエキスパートに教わるワイン入門

ポートワインのベネフィシオが意味するもの

ポートワインの産地ドウロでは、発酵中のモストにぶどう蒸留酒を加える操作を benefício(ベネフィシオ) とも呼びます。なぜ本来「利益・利点」を意味する benefício という語が、この操作名として使われているのでしょうか。

答え(要点)

用語の整理(現地の使い分け)

ひとことで言うと

benefício は「よくする/恩恵」という語義から、

  1. ワインを“良くする”ための蒸留酒添加(技術)、
  2. その処置を行う“権利(特権)”としての年次割当(制度)、

の両方を指す言葉としてドウロで定着している、という理由で使われています。

参考(主要ソース)

ベネフィシオの割当は、畑(区画)の等級に連動していますよね。

答え(結論)

はい、連動しています。

IVDP(ドウロ・ポートワイン協会)は毎年「その年に生産できるポートの総量=benefício」を決め、各区画の等級(ポイント法による A〜I の格付け。benefício 配分では上位の A〜F が実務上の目安になる)に応じて区画別の割当(autorização de produção/cartão de benefício)を配分します。公式説明に「benefício は販売動向・在庫等を基に年ごとに定め、その後区画の格付けを考慮して配分する」と明記されています。ivdp.pt

仕組み(ステップ)

  1. 総量の決定(毎年)
    • インタープロフェッショナル評議会が、販売の推移・在庫水準などを踏まえて、その年のbenefício 総量を決定します。
  2. 区画の格付け(恒常的)
    • 各区画は Portaria 413/2001 に基づくポイント法で評価され、A〜I のクラスに分類されます(benefício 配分の実務では、上位クラスの A〜F が主に意味を持ちます)。評価指標は、立地・標高・向き・斜度・遮蔽・土壌などの自然条件と、栽培品種・樹齢・収量性・植栽密度・仕立てなどの栽培条件です。
  3. 割当の配分(区画等級に比例)
    • 決められた総量は、区画の格付けに応じて生産者ごとに「ベネフィシオ可能量(モストのパイプ数)」として割り当てられ、文書(オンラインの生産許可=autorização de produção/カード)で通知されます。

用語の注意(「蒸留酒の割当」について)

実務では「蒸留酒そのものの割当」ではなく、“ベネフィシオしてよいモスト量(=Portに仕立ててよい量)”の割当として表示されます。必要な蒸留酒量は、毎年のコミュニカド(収穫通達)で示される添加比に従って従属的に決まる仕組みです。

なぜ「蒸留酒の割当」と誤解されるのか(歴史と実務)

在庫管理・会計上の“アグアルデンテ口座(conta corrente)”
IVDP 文書には、ベネフィシオで実際に使用したアグアルデンテを“アグアルデンテ口座”に記帳し差し引く運用が示されています。これは使用量の管理であって、権利としての“蒸留酒割当”を付与する趣旨ではありません。
歴史的には共同配給に近い運用も
1950年代の文書には、Casa do Douro に保管したアグアルデンテを“ベネフィシオ対象モスト”に応じ按分する旨の記載が見られ、供給面の配給(rationing)が“割当”のように見えた時期もありました。ただし基準は常に“ベネフィシオするモスト量”です。

高品質の蒸留酒の供給が滞っていた時期の話かもしれませんが、「蒸留酒の割当」は政治的な課題だったのではないでしょうか。

結論(先に要点)

はい。歴史的には「蒸留酒(アグアルデンテ)の割当・配給」は強く政治化されていました。

とくに
①ポンバル時代〜20世紀初頭の「ドウロ域内での蒸留禁止と他地域からの強制供給」、
②エスタド・ノヴォ体制下の国家・公的機関による供給独占と按分(rateio)、
③EC 加盟後の独占緩和をめぐる欧州法との衝突と自由化(1991年前後)、
がその核心です。現在の制度では割当の中心は“モスト量(ベネフィシオ可能量)”ですが、過去には蒸留酒そのものの“配分・管理”が政治課題でした。

史的整理(簡潔版)

  1. 18〜20世紀初頭:域内蒸留の抑制と“外からの供給”
    • 1907年の政令は「ドウロのワインの蒸留を禁じ、他地域産の蒸留酒でベネフィシオする」ことを定め、現地で強い反発を招きました。つまり、ベネフィシオ資材の供給源を政策的に固定したわけで、これは典型的な政治介入です。ivdp.pt
  2. 1930年代〜1990年前後:公的機関による供給管理と“蒸留酒の按分”
    • Casa do Douro(生産者組織)とIVP/IVDP(監督機関)の枠組みで、アグアルデンテの購入・使用条件・手数料・使用上限などが細かく定められ、文書には「Casa do DouroやJNV(Junta Nacional do Vinho)が供給するアグアルデンテを所定比率で用いる」「総会決定の“アグアルデンテ按分(rateio)”に従う」等が明記されています。これは事実上の配給・割当の運用で、価格や入手性が政策で左右されました。CV 1955_IVP_CD e Base de Beneficio
  3. EC加盟後(1986〜1991):独占の欧州法適合を巡る対立と自由化
    • 欧州司法裁判所の資料(C-361/90)には、「ポート用ワイン蒸留酒の取得・供給の国家独占を段階的に適合させ、輸入枠(コンティンジェント)を開くべきだ」という勧告・争点が示されています。1991年にはアグアルデンテ調達の自由化が進み、ハウスが供給者を選べる方向に転換しました(IVPの当時文書・業界証言にも同旨)。独占から準市場化への移行は、きわめて政治的な争点でした。CV 1991_IVP, FINE+RARE: Aguardente vinica and its role in Port winemaking
  4. 供給ひっ迫と“政治的争点化”の繰り返し(事例)
    • たとえば1897年にはアグアルデンテ不足で北欧からの輸入やウイスキーでの補強に頼った記録が公式年表に残り、2000年代にも価格高騰・不足が生産者団体から問題提起されています。供給や価格形成に政策(EUの酒精蒸留補助の縮小など)が影響し、実務上“蒸留酒の配分”が政治課題化する局面は繰り返されました。IVV // Notícias

現行との関係(誤解しやすい点)

ひとことで

参考(一次・公的中心)

アグアルデンテの供給元がどのように変遷したのか、あわせて原料(ぶどう由来の可否・産地)およびアルコール度数の規格が歴史的にどのように変化してきたのかを整理してください。

結論(先に要点)

年代別の整理(供給元・原料・度数)

  1. 18世紀後半(1756年以降)— 国内(北部)での蒸留供給
    • 制度:CGAVADに北部三州(ミーニョ・トラス=オス=モンテス・ベイラ)のアグアルデンテ生産・販売の独占が付与(1760年アルヴァラ)。同社はミーニョ各地に蒸留所を運営し、地元ワインを買上げて蒸留→ガイアへ輸送→ポートのロットに使用。一次資料に基づく詳細な出荷・価格記録が残ります。(Microsoft Word - AS VENDAS DOS VINHOS DA RIBEIRA MINHO \300S F\301BRICAS DE AGUARDENTE DA COMPANHIA2.doc) - vendas_vinho.pdf
    • 示唆:この時期、国内ワイン由来のアグアルデンテがポートに用いられていたことは確実。ただし**「ドウロ域内の劣等ワインを蒸留」と断定できる一次条文の明記は、ここではミーニョの証拠が主**です。
  2. 1907年— ドウロ域内での蒸留禁止と他地域からの強制供給
    • 転換点:1907年6月27日の政令がドウロ産ワインの蒸留を禁止し、他地域産アグアルデンテの受入れを義務化。この措置は現地で激しい反発・混乱を招いたことがIVDPの公式史に記録されています。
    • 帰結:ベネフィシオ用スピリッツは制度的に域外調達へ。
  3. 20世紀中葉〜1990年代— 公的管理とEU移行
    • 管理:Casa do Douro/IVPが**「ベネフィシオ配分」や**「生産者へのアグアルデンテ供給」機能を担う体制(1940年の規制以降)が構築。
    • EU法との関係:ECJ 1993年判決(C-361/90)は、「ポート用ワインスピリッツの取得・供給の国家独占の漸進的調整義務を履行していない」との欧州委の主張をめぐる事件。裁判所は委員会の訴えを棄却していますが、当時の独占的制度枠組みの存在は、同事件関連資料に明確に記述されています。
  4. 現行(2000年代以降)— 規格の明確化と国際調達
    • 原料:ぶどう由来(aguardente de origem vitícola / vínica)であることが必須。IVDP認証(官能・理化学・同位体)が義務。
    • アルコール度数:77.0% vol(±0.5、20 °C)が規定(EUのCaderno de Especificaçõesほか、IVDPのComunicado de Vindimaや2007年以降の通達で反復)。歴史通覧としては近現代の規格化と考えるのが安全です。
    • 使用量(量的レンジ):550 Lのワイン当たり、≥65 L かつ ≤120 L の範囲で使用可(端点は含む)。これは2012年以降の「Comunicado de Vindima規程」、2017年の規則、2020–22年の官報等で整合。
    • 実務の調達先:現在用いられるアグアルデンテの「ほぼ全量」はスペインやフランス等から輸入とIVV(国立機関)が説明。
    • 補足(産地表示の違い):スピリッツ自体にDO「Douro」を名乗る場合は、RDD産ワインを原料に、原則RDD内で蒸留などの要件を満たす必要があります。これはポート用のスピリッツ一般にDO表示を要求しているわけではない点に注意。

Portaria n.º 413/2001 では畑を A〜I に分類していますが、この「畑の評価(格付け)」は、いつ頃から始まったのでしょうか。

結論(短答)

タイムライン(要約)

したがって、「畑の評価」は1930年代から制度化され、現在のA〜Iという“格付け=点数法”は1947年に始まった、と整理できます。

Portaria n.º 413/2001 では、畑の評価軸は主に「物理的条件」と「生産(栽培)条件」です。しかし、1935年以前にも畑の評価は行われており、経験的・帰納的に、ヴィンテージ・ポートは評価の高い畑のぶどうから造られていたのではないでしょうか。なぜ評価軸が物理的・生産条件へと整理されたのでしょうか。

答え(要点)

補足:Portaria n.º 413/2001 が列挙する評価因子

同ポルタリアの本文は、評価を「土壌・気候(edafoclimáticos)」+「栽培(culturais)」に大別し、12要素で点数化、合計点で A〜I に分類すると定めています。

まとめ

あなたは以前、Cadastroを「畑の格付け」と言っていませんでしたか。今回は「区画台帳(cadastro)」ですね。

用語の整理(簡潔)

Cadastro(区画台帳)
区画ごとの位置・標高・方位・土性・品種・樹齢など客観データを登録する台帳を指しています。台帳は「事実の記録」であって評価そのものではないと理解しています。
Método de pontuação(点数法)/Classificação(格付け)
台帳等の情報を用いて配点を合算し A〜I に分類する評価手続きを指しています。benefício の配分はこの格付けを前提にしています。

歴史の位置づけ(最小限)