OIV(国際ブドウ・ワイン機構)は、2024年に採択した決議 OIV-VITI 703-2024 の中で、「古いぶどうの樹(old grapevine)」を樹齢35年以上と定義しました。これは、公的な記録などでその年数が確認できる株を指します。
さらに、接ぎ木株の場合は「台木と穂木の結合が少なくとも35年間維持されていること」が条件とされています。あわせて、OIVは「古いぶどう園(old vineyard)」についても定義を設けており、区画内の85%以上の樹がこの“古いぶどうの樹”に該当する場合に限り、その畑を「古いぶどう園」と認めています。
OIV(国際ブドウ・ワイン機構)が2024年に採択した 決議 OIV-VITI 703-2024 は、「古いぶどうの樹(old grapevine)」や「古いぶどう園(old vineyard)」の科学的・技術的な定義を示すものであり、ラベル表示の使用を直接規制するものではありません。
この決議では、
さらにOIVは、これらの定義を用いる目的として、ぶどう園の長寿性や遺伝的多様性、伝統的景観の保全を促進し、各国での調査・保護・研究を支援することを挙げています。
したがって、この決議は「ラベル表示の統制」よりも、「科学的評価や文化的保全のための共通基準」を与えることを主眼としています。
今後、各国がこの定義をどのように制度や表示規則に取り入れるかが注目されています。
OIVは、ぶどうの樹齢の高さを単なる年数ではなく、遺伝的多様性(genetic diversity)や長寿性(longevity)と結びついた生物学的・栽培的特性として捉えています。
まず、「遺伝的多様性」とは、同じ品種の中にも複数の遺伝的系統(クローンや変異体)が存在することを指します。古いぶどう園では、過去の世代に植えられたさまざまなクローンや自然変異株が混在しており、結果として品種内の多様性(intravarietal diversity)が豊かに保たれています。こうした多様性は、病害抵抗性や気候変化への適応力を高める要因となります。
一方、「長寿性(longevity)」は、ぶどう樹が長期間にわたって健康に生育し、生産を維持できる能力を意味します。OIV-VITI 703-2024では、健康な古木や古いぶどう園が「持続可能な栽培の成功例」であり、環境変化への回復力(resilience)と適応性(adaptability)を示すものとして評価されています。
つまり、OIVが重視しているのは、「古いぶどう樹」を単なる年老いた植物としてではなく、長い時間の中で遺伝的多様性と生態的バランスを維持してきた生きた資源として保護・研究の対象とすることです。
OIV が定義する「古いぶどうの樹(old grapevine)」は、あくまで「公式な記録により 35年以上であることが確認された単一株(接ぎ木の場合は 台木と穂木の結合が少なくとも35年間維持されている株)」という時間的・文書的条件のみで定義されています。クローンの均一性・不均一性は、この定義そのものの要件には含まれていません。
一方で、決議 OIV-VITI 703-2024 の前文では、2019年の決議 OIV-VITI 564B-2019 を引用し、ブドウ品種は本来的に不均一(heterogeneous)であり、収量・酸度・耐病性・環境応答などの形質に個体差があることが強調されています。
この背景から、OIV が「古いぶどう園(old vineyard)」としてとくに重視しているのは、時間の経過とともに自然変異や複数の遺伝系統が共存し、環境との相互作用によって個性が形成された植栽であり、若い時期から単一クローンだけを均一に植えた畑は、理念的には主たる想定例ではないと解釈できます。
したがって、OIV の定義は法的には「35年以上であることが証明された株/その株が85%以上を占める畑」を包括的に old grapevine / old vineyard に含めつつ、政策・保全の観点からは、とくに遺伝的多様性に富む古いぶどう園を重点的に評価・保護するという二層構造になっている、と説明するのがより正確だと思います。
OIV(国際ブドウ・ワイン機構)が2019年に採択した 決議 OIV-VITI 564B-2019 は、ぶどう品種の中に存在する遺伝的多様性(intravarietal diversity)を保全・回復するための国際的な指針です。
この決議は、同一クローンばかりを植えることでぶどう園が遺伝的に均質化し、環境変化や病害への適応力を失うことへの懸念を背景に作成されました。OIVは、古いぶどう園などに残る多様な系統(クローン)を活用し、複数の遺伝型を組み合わせた「多クローン選抜(polyclonal selection)」を推奨しています。
具体的には、古い植栽から多様な健全株を選び、フィールド試験を経て7〜20種類ほどのクローンを群として維持・利用することを基本としています。こうした方法により、品種の遺伝的幅を保ちながら、環境変化に強く、長期的に安定したぶどう栽培を実現することが目的です。
この決議は法的拘束力を持つものではなく、各国や産地が遺伝的資源を守るために参照すべき技術的ガイドラインとして位置づけられています。
OIVがいう多クローン選抜(polyclonal selection)は、伝統的なマサル・セレクション(massal selection)と似ていますが、厳密には異なる概念です。
マサル・セレクションは、古いぶどう園などで生育の良い株を経験的に選び、その穂木を採取して次世代の畑に植えるという、現場的・経験的な選抜法です。これに対して、多クローン選抜はOIV-VITI 564B-2019で体系化された科学的・統計的な選抜法であり、次のような手順をとります。
この「群として維持」というのは、単一クローンの繁殖を行うのではなく、選抜された複数のクローンを混合して増殖し、同一ロットとして配布することを意味します。つまり、穂木供給機関や苗木業者が「ポリクローン群」という単位で苗木を生産・販売し、植え付け後もその内部構成比(複数クローンの混在状態)を保つように管理するという仕組みです。
したがって、多クローン選抜はマサル・セレクションのような感覚的手法ではなく、科学的な裏付けをもって“遺伝的幅を残す”ための再現可能な制度的枠組みです。
OIV-VITI 564B-2019 に基づく多クローン選抜を前提とした「ポリクローン増殖用材料」の認証制度は、ポルトガルで自発的な国家スキームとして実際に運用されていることが公表されています。
フランスの IFV やスペインの研究機関(CSIC など)もポリクローン選抜や関連研究には関与していますが、2025年11月時点で、これらの機関が OIV-VITI 564B-2019 型の 公的ポリクローン認証苗を広範に供給していることを示す一次情報は限定的です。
ご指摘のとおり、母集団と新たに植えられるポリクローン群とは同一ではありません。OIVの定義に基づく多クローン選抜では、母集団そのものを再現することは目的としていません。
母集団は、古いぶどう園などに存在する遺伝的多様性の「貯蔵庫」として評価・記録されますが、そこから得られるポリクローン群は、その多様性の中から代表的で健全な複数クローンを選抜した「縮約モデル」です。つまり、母集団の完全な再現ではなく、その一部を統計的・遺伝的に再構成した集合にすぎません。
このため、母集団で得られた評価(例:多様性指数、形質分布、環境適応性)は、新しいポリクローン群の畑では参考情報としての価値はありますが、直接的な品質・表現型の予測値にはなりません。
OIV-VITI 564B-2019 でも、ポリクローン群は「母集団の遺伝的幅を保持しつつ、衛生的で安定した生産用材料を提供する」ことを目的とするとされており、母集団そのものの保存とは区別されています。
要するに、ポリクローン選抜は母集団の多様性を「完全に再現」するのではなく、実用上再生可能な範囲で遺伝的多様性を引き継ぐための技術的妥協点です。したがって、母集団の科学的評価は失われませんが、その評価は「新植群の設計根拠」としての意味にとどまります。
はい、その通りです。
OIVは、多クローン選抜(polyclonal selection)によって形成される「ポリクローン群(polyclonal population)」を、ぶどう園の長寿性(longevity)と遺伝的多様性(genetic diversity)を両立させる実践的な手段と位置づけています。
同一クローンだけで構成された畑は、病害や環境変動への耐性が限られ、長期的には衰退しやすい傾向があります。これに対し、複数の遺伝型を組み合わせたポリクローン群では、異なる生理的特性や耐病性が相互に補い合うため、全体としての環境適応力と持続性が高まります。
また、個体差があることにより、収量や成熟の年次変動が平均化され、ぶどう園全体の構造的安定性が保たれやすくなります。こうした「遺伝的ゆらぎ」を意図的に導入することで、単一クローン栽培では得られない長期的な健全性と多様性が確保されるのです。
したがって、ポリクローン群はOIVが提唱する「持続可能な栽培」の核心に位置しており、ぶどう園の長寿性・生態的安定性・文化的継承性を支えるモデルとされています。