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ヌーヴォーと翌年以降販売されるボジョレーの違い

ヌーヴォーと翌年以降販売されるボジョレーは貯蔵タンクに入っている期間以外に違いがありますか?

AOC 仕様書上、「primeur / nouveau」付きのワインにはキュヴェ滞留期間 ≤ 10 日や、ヌーヴォーとして請求できる量は認可収量の 0.5 倍以内といった追加条件がありますが、いずれも同じ AOC 内のスタイル違いを位置づけるための技術的な制約です。
ベースとなる AOC 名(Beaujolais / Beaujolais-Villages)や、認可ブドウ品種などの枠組みは通常キュヴェと共通です。

「ボジョレー・ヌーヴォー」と「通常ボジョレー」の違い(体系的整理)

区分 ボジョレー・ヌーヴォー(Nouveau / Primeur) 通常ボジョレー
AOC 名 Beaujolais / Beaujolais-Villages +補足表示 primeur または nouveau Beaujolais / Beaujolais-Villages
販売開始日 収穫年の11月第3木曜(0時) 赤:収穫翌年1月15日以降、ロゼ:収穫年12月15日以降
醸造方式 主に セミ・マセラシオン・カルボニック(partial carbonic maceration)
全房または一部除梗による嫌気発酵
セミ・カルボニックまたは通常の赤ワイン醸造(除梗・破砕・長期浸漬)
選果・原料の傾向 樹齢若め/果皮薄め/酸や果実香の明瞭な区画を選ぶ傾向 樹齢高め/斜面・花崗岩区画などの構造のある原料
アルコール度数(現代) 12.0–13.5 %vol(温暖化の影響) 同等またはやや高め(13.0–14.0 %vol)
酸度・pH pH ≈ 3.30–3.45 / 総酸 ≈ 5.5–6.5 g/L(H₂SO₄換算) pH ≈ 3.45–3.60 / 総酸やや低めでも許容される

行政上の違いと共通点

項目 内容
収穫・申告段階では区別なし ヌーヴォーを造る可能性のある区画については、収穫前に生産意向申告が必要ですが、収穫時点でロットごとに「Nouveau にする/しない」を完全に決めておく必要はなく、年内の部分請求(revendication partielle)で最終的な Nouveau 量を確定させます。
“primeur” 請求は年内必須 収穫年の 12 月 31 日までに、Nouveau にするロットの「部分請求(revendication partielle)」を行う必要あり。未申請分は翌年以降の通常ボジョレーとして申請可。
通常キュヴェは翌年に最終申告 年明け(1–3 月)に残りのワインの最終申告(revendication)を提出し、Beaujolais / Villages として確定。

ヌーヴォー/翌年向きを最初から決めて醸造する生産者が多いのでしょうか?

「最初から完全に決めて仕込む」生産者もいますが、全体としては一律ではありません。 ただし、ヌーヴォーには 「キュヴェ滞留期間 ≤ 10日」などの醸造規定があるため、“ヌーヴォーとして成立できる造り” をするかどうかは、仕込み段階で確定します。

実際の運用はどうなっているか?

生産者タイプ別の傾向

生産者 判断のタイミング 背景
大手ネゴシアン・協同組合 仕込み前から数量を決めて造る 輸出契約・販売量があらかじめ確定している
中小ドメーヌ ヌーヴォー資格を保つ造りにしておき、市場の需要を見て配分を決定 年によってヌーヴォー比率が変動しやすい

マセラシオン・カルボニックとは

マセラシオン・カルボニック(maceration carbonique:MC)とは

潰れていない果粒(=intact berries)の内部で、嫌気的条件下で自然に起こる酵素的発酵。アルコール度数 2 %vol 程度に達するまで、果粒内で細胞内発酵が進行し、ベンジルアルコールやエステル類などの芳香成分が生成されます。

要素 内容
酸素遮断 CO₂ による嫌気的環境(タンク上部が重要)
果粒の健全性 intact(潰れていない)果粒が前提
温度管理 発酵温度 25〜30℃が最適、低温ではMCの進行が遅れる
時間 4〜10日が典型(果粒内部の酵素反応が限られる)

セミ・カルボニック(semi-carbonic maceration)とは

CO₂ ガスを人工的に充填せず、タンク底部で自然に潰れたブドウから通常の酵母発酵が始まり、それにより生成した CO₂ が上部を満たし、上層で MC を引き起こす仕組み。
これはボジョレーを含むフランス南部で広く行われており、「MC の自然発生型」と言えます。

工程 内容
① タンク投入 全房または半房のブドウをタンクに詰める
② 下層潰れ 自重や部分除梗で潰れた果粒から酵母発酵が始まる
③ CO₂ 生成 酵母発酵により自然に CO₂ が発生
④ 上層で MC 発酵 嫌気的環境となったタンク上層で MC が進行

つまり、「セミ・カルボニック」は マセラシオン・カルボニックを自然に引き起こす実務手法であり、「MC」とは現象レベルの用語です。

「半房(partial destemming)」とは

収穫した房の一部を除梗(梗を取る)し、残りは梗付きでタンクに入れる方法。英語では partial destemming、フランス語では vendange partiellement égrappée。

目的 内容
CO₂ 発生の安定化 除梗した果粒から早く酵母発酵が始まり、上層の MC に必要な CO₂ がすばやく供給される
抽出コントロール 梗の量を調整してタンニンや pH の上昇を抑制/誘導する
ワインのバランス 全房では梗由来の青さが出すぎる場合、部分除梗で調整する

ボジョレーにおける利用状況:ヌーヴォー vs. 通常キュヴェ

要素 ボジョレー・ヌーヴォー 通常ボジョレー
MC の利用 主流(セミ・カルボニック方式)
MC の効果を意図的に出す
一部で使用(特に若飲み向け)
通常発酵との併用も
全房使用率 高い(80〜100 %)
果梗の存在がMCの維持に有効
中〜低(30〜70 %)
ヴィンテージやスタイルに応じて除梗量を調整
半房の目的 CO₂ 生成の安定化
タンニン軽減
pH や構造のバランス調整
色素抽出の制御
熟成期間 4〜8 週間 数ヶ月〜1年以上
目指すスタイル フレッシュ・果実香重視・タンニン少 構造・熟成適性・テロワール反映

結論

ロゼのヌーヴォーについて教えてください。

ボジョレーにおける「ロゼのヌーヴォー」は、法令上は以前から赤と同様に「primeur / nouveau」の対象に含めることができ、実際にはそれ以前から少量が造られていた可能性もありますが、文献や公的情報から明確にたどれる市場商品としては2006 ヴィンテージに一部生産者が試験的に登場させ、2007 ヴィンテージから Inter Beaujolais が本格的に打ち出した、比較的新しいスタイルです。

醸造方法の特徴

工程 ロゼ・ヌーヴォーでの処理
仕込み 通常は直接圧搾(pressurage direct)または短時間マセラシオン後のセニエ(saignée)方式
マセラシオン・カルボニックは使わない 赤のようなMCは行わず、果皮接触時間を最小限にしてロゼに仕上げる
発酵 ステンレスタンクなどで15–18℃程度の低温発酵。果実香を重視したスタイル

マセラシオン・カルボニックは果皮からの抽出(色・香り)を伴うため、淡色であるべきロゼとは相性が悪い。

赤のヌーヴォーの発酵温度はロゼと違うのですか?

はい、赤のヌーヴォーとロゼのヌーヴォーでは発酵温度が明確に異なります。これは目的とするスタイルの違い(色調・香味・テクスチャ)に基づいて、醸造設計そのものが異なるためです。

工程 概要
マセラシオン・カルボニック(セミ・カルボニック)中 主に25–32 °C:果皮に含まれる芳香前駆体の分解や果粒内酵素活性(解糖系)を促す。高温ほどエステル生成も進む。
プレス後のアルコール発酵 通常20–28 °Cで酵母発酵。果実香・キャンディ香を引き出すにはやや高め(24–26 °C)を保つ。
MLF(マロラクティック発酵) 一部の生産者ではヌーヴォーでも実施。温度は 18–22 °C程度。瓶詰前に終了させる必要があるため、温度管理が重要。

果実味豊かでややフローラル、赤紫調の色調、揮発性エステル(バナナ・綿菓子系)を際立たせるため、高めの発酵温度を用いるのが標準。

Beaujolais Nouveau のカタカナ表記はいくつか見かけますが、どれが正しいのでしょうか。

現在の日本語では 「ボジョレー・ヌーヴォー」 が最も一般的かつ推奨される表記です。

フランス語の発音
  • Beaujolais → [bo.ʒɔ.lɛ]
    • 語末は「レ」に聞こえるため、「ボジョレ」でも音声的には近いですが、長音をつけた「ボジョレー」がより自然な表記として定着しています。
  • Nouveau → [nu.vo]
    • [v] は唇を使う有声摩擦音で、日本語にはない音。「ヌヴォ」に近いですが、表記としては「ヌーヴォー」または「ヌーボー」が使われます。
他の表記について
  • ボジョレ・ヌーヴォ
    辞書や一部の新聞で見られますが、現在は少数派です。
  • ヌーボー表記
    間違いではありませんが、近年はフランス語原音に近い「ヌーヴォー」が主流。

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