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AOC Beaujolais〈ボジョレー〉の仕様書には何が書かれているのか?

AOC Beaujolais の仕様書(Cahier des charges)を例に、仕様書にはどのような事項が定められているのかを教えてください。

まず 仕様書全体の構成(章立て)を把握できる形で整理します。
本仕様書は大きく「CHAPITRE Ier」および「CHAPITRE II」の2部構成となっており、それぞれに細分化された項目があります。

AOC Beaujolais 仕様書(Cahier des charges)全体構成

CHAPITRE Ier
(AOC Beaujolais の定義・生産条件に関する条項)
  • Nom de l’appellation – 呼称名称
  • Dénominations géographiques et mentions complémentaires – 地理的補足表示と付加表示
  • Couleur et types de produit – 色および製品タイプ
  • Aires et zones dans lesquelles différentes opérations sont réalisées – 収穫・醸造・熟成の実施区域
  • Encépagement – 使用ブドウ品種
  • Conduite du vignoble – 栽培管理
  • Récolte, transport et maturité du raisin – 収穫・運搬・成熟度基準
  • Rendements – Entrée en production – 収量制限・若木の生産開始基準
  • Transformation, élaboration, conditionnement et stockage – 醸造・瓶詰・保管条件
  • Lien avec la zone géographique – 地理的特性との関連性
  • Mesures transitoires – 経過措置
  • Règles de présentation et étiquetage – 表示・ラベル規定
CHAPITRE II
(申告および帳簿管理に関する条項)
  • Obligations déclaratives – 申告義務
    1. Déclaration d’intention de production – 生産意図申告
    2. Déclaration de revendication – 呼称使用申請
    3. Déclaration préalable à la transaction et retiraison – 取引前申告・引渡申告
    4. Déclaration de mise à la consommation – 市場流通申告
    5. Système dérogatoire – 例外的申告制度
    6. Déclaration relative à l’expédition hors du territoire national d'un vin non conditionné – バルク輸出申告
    7. Déclaration de renoncement à la mention « primeur » ou « nouveau » – 「ヌーヴォー」放棄申告
    8. Déclaration de repli – 呼称格下げ申告
    9. Déclaration de déclassement – AOC失格申告
    10. Déclaration d’appareil pour TSE – 濃縮装置申告
    11. Remaniement des parcelles – 区画改変申告
    12. Déclaration d’adaptation de la densité des vignes par arrachage partiel – 植栽密度調整申告
  • Tenue de registres – 帳簿管理義務
    1. Plan général des lieux de stockage et de vinification – 保管・醸造設備台帳
    2. Registre TSE – 濃縮操作記録簿
CHAPITRE III
(検査対象項目と評価方法に関する条項)
  • Points principaux à contrôler et méthodes d’évaluation – 管理対象項目と評価方法

「呼称名称」に記載された
« Seuls peuvent prétendre à l’appellation d’origine contrôlée « Beaujolais », initialement reconnue par le décret du 12 septembre 1937, les vins répondant aux dispositions particulières fixées ci-après. »
にある「最初に認定された(initialement reconnue)」とは、具体的に何を意味しますか。

これは、AOC「Beaujolais」という呼称が1937年9月12日のフランス政令によって初めて公式に制定されたという事実を示す表現です。

この日付は「呼称が制度上、最初に成立した日」を明示するために記載されており、歴史的な認可日(初回認定日)を示す役割を持っています。

この記載は「制定日を示す履歴情報」であり、現在の仕様書がその政令内容に完全に従っているという意味ではありません。
AOC制度の改正やAOP(EU制度)への併存登録が行われても、初回認定日そのものは変更されません。

Villages & コミューン名表示

Villages 表示ができるコミューン コミューン名を表示できるコミューン
Saône-et-Loire Chânes Chânes
La Chapelle-de-Guinchay La Chapelle-de-Guinchay
Leynes Leynes
Pruzilly Pruzilly
Romanèche-Thorins Romanèche-Thorins
Saint-Amour-Bellevue  
Saint-Symphorien-d’Ancelles Saint-Symphorien-d’Ancelles
Saint-Vérand  
Rhône Les Ardillats Les Ardillats
Beaujeu Beaujeu
Blacé Blacé
Cercié Cercié
Charentay Charentay
Chénas  
Chiroubles  
Denicé Denicé
Emeringes Emeringes
Fleurie  
Juliénas  
Jullié Jullié
Lancié Lancié
Lantignié Lantignié
Marchampt Marchampt
Montmelas-Saint-Sorlin Montmelas-Saint-Sorlin
Odenas Odenas
Le Perréon Le Perréon
Quincié-en-Beaujolais Quincié-en-Beaujolais
Régnié-Durette  
Rivolet Rivolet
Saint-Didier-sur-Beaujeu Saint-Didier-sur-Beaujeu
SaintEtienne-des-Oullières SaintEtienne-des-Oullières
Saint-Etienne-la-Varenne Saint-Etienne-la-Varenne
Saint-Julien Saint-Julien
Saint-Lager Saint-Lager
Salles-Arbuissonnas-en-Beaujolais Salles-Arbuissonnas-en-Beaujolais
Vaux-en-Beaujolais Vaux-en-Beaujolais
Vauxrenard Vauxrenard
Villié-Morgon  

「収量制限」の項目にある「プリムール/ヌーヴォー」として申告できる最大量の制限ついて解説してください。

2022年版仕様書では、「プリムール/ヌーヴォーとして申告できる最大量の制限」が “収量制限(rendements)” の項目に組み込まれるという制度上の構造変更が行われました。

これは「新しく制限が導入された」という意味ではなく、既存の制限(2013年版仕様書では 0.5 倍)が「収量体系の一部として再定義された」 ことが重要点です。

2013年版仕様書との比較

項目 2013年版 2022年版
最大量制限の有無 あり(0.5 倍) あり(0.6 倍/0.5 倍・区分化)
記載場所 IX. Transformation / élaboration(醸造工程の節) VIII. Rendements(収量制限の節)
制度位置づけ 醸造工程に関する特例として扱われる 収量法体系に直接組み込まれ、恒久ルール化
AOC区分 Beaujolais / Beaujolais-Villages ともに 0.5 固定 Beaujolais:0.6 倍 / Villages:0.5 倍

つまり、2022年の変更は「係数の追加」よりも “制度上の位置づけが変わった” ことが本質的な変化です。

なぜ「収量制限」章に移されたのか

「プリムール量の制限」が 収穫量の中で配分すべき枠 であることを明確化
従来は「醸造工程上の特例」として書かれており、制度的には “品質管理のために申告できる量を制限する” という位置づけでした。
2022年以降は “収穫量の総枠のうち、最大〇割までしかヌーヴォーに回せない” という法的な生産配分ルールとなり、位置づけが強化されました。
「年度ごとの調整権限」を明文化しつつ、原則値を固定
2013年版でも「primeur/nouveau として申告できる量は、当該年の『volume pouvant être déclaré』の 0.5 倍を超えてはならない」という拘束力のある規定が存在していた。ただし条文上は IX章「Transformation / élaboration(醸造工程)」に置かれており、収量体系の中核ルールというより、醸造工程に関する特則として位置づけられていた。
2022年版では:
  • 0.6(Beaujolais)/0.5(Villages)を 原則値として固定
  • 例外変更は 減少方向に限り可能
  • 変更手続きは 委員会決議 → 省令(arrêté ministériel)承認
= 例外を排除し、規範化(可変から恒久へ)
「収量規定とヌーヴォー枠」がリンクし、計算が明確化された
2013年の条文では定義はされているが、どの節の「volume pouvant être déclaré」を参照するかは文脈依存
2022年改正後は:
  • 「volume pouvant être déclaré」=収量規定 VIII-1°に基づく理論値 と明確にリンク
  • → 収穫前に数値が確定する制度設計に変更

「収量制限」には 1ヘクタールあたりの収量(rendement)が記載されていますが、この収量は、実際にワインとして製品化できる量の上限を定めているのでしょうか。それとも、ワインになる前のマスト(ぶどう果汁)の量を指しているのでしょうか。
また、収量とは別に上限収量(rendement butoir)が併記されており、AOC Beaujolais の白ワインの場合は 68 hl/ha と 75 hl/ha になっています。収量と上限収量はどのように異なるのでしょうか。

「収量(rendement)」は何を指す量か

AOC仕様書に記載される収量(rendement)は、ブドウ果汁(マスト)ではなく、完成したワインとして申告できる最大量(hl/ha)を意味します。

したがって例として 68 hl/ha と記載されている場合、「1ヘクタールのブドウ畑から 最大 68 ヘクトリットルまでしか AOC ワインとして申告できない」という意味になります。

「収量(rendement)」と「上限収量(rendement butoir)」の違い

用語 意味 適用条件
収量(rendement) AOCごとに定められた「基準収量」 この値を基準にして、毎年の「格付け上限(plafond limite de classement)」が決められる。収穫量がこの水準を超えた場合、その超過分がすべて AOC として認められるとは限らず、年度ごとに定められる PLC や貯蔵制度(reserve など)に従って扱いが決まる。
上限収量(rendement butoir) PLC を設定する際の絶対的な上限 コード・ルラル上、「PLC は常に rendement butoir 以下でなければならない」と定められている。実際の収穫量が、その年に定められた PLC を超えると、区画全体が AOC の資格を失う(perte du bénéfice de l’appellation)扱いとなる。

上限収量を超えた場合の扱い

つまり収量規定は「超えた分だけ罰則」ではなく、“AOCとして名乗る資格を完全に失う” という強制力を持った制度です。

「プリムール/ヌーヴォー」の醸造に関する特別規定について説明してください。

赤ワインおよびロゼワインに「primeur / nouveau」という表示を認める際、醸造工程に関して次の技術的要件が制度的に設定されています。

キュヴェ滞留期間は10日以内に限定される

仕様書に記載される « durée de cuvaison ≤ 10 jours » は、果皮・種子・果汁が同じタンク内で接触している期間を意味します。

この数値制限は、「理想の味わいを定義するための規制」ではなく、長期浸漬や濃厚抽出を制度上排除することで、結果として“若く・早く飲めるワイン”が成立するように設計された条件です。

10日を超えた場合の扱い

「プリムール/ヌーヴォー」の醸造に関する特別規定は、CHAPITRE II に定められている
ヌーヴォー放棄申告・呼称格下げ申告・AOC失格申告
と関係していると思われますが、それぞれの申告制度について説明してください。

ヌーヴォー放棄申告

制度の目的
すでに「primeur/nouveau」として revendication(表示申告)しているロットの一部または全部について、“ヌーヴォー表示のみ” を取り下げるための手続きです。
AOC資格は維持され、通常の AOC Beaujolais(または Villages)として販売可能です。
どのような場合に行われるか
  • 醸造条件を満たしていても、市場需要が想定より低くなった場合
  • 思ったより骨格があり、翌年向け通常AOCとして売った方が有利な場合
  • ネゴシアンとの商談変更により、ヌーヴォー数量を削減する必要が出た場合
ポイント
  • primeur/nouveau の表示権だけを放棄する手続き
  • AOC名は残る → 「ヌーヴォーではないボジョレー」として販売される
  • 手続きは 取引(バルク販売)または瓶詰・流通時点で申告

呼称格下げ申告

制度の目的
同じ AOC の中で、地理的補足を伴う呼称(例:Beaujolais-Villages)から、補足を伴わない基本呼称(Beaujolais)へ変更するための申告。
どのような場合に行われるか
  • 官能審査・分析値などで基準をわずかに満たさない場合
  • 市場戦略により、価格帯を下げて販売したい場合
  • 買い手が「Villages ではなく Beaujolais で買いたい」などと要求した場合
ポイント
  • AOC 資格自体は維持される
  • 「ヌーヴォー放棄」と違い、区分(Villages/Beaujolais)が変わる点が重要

AOC失格申告

制度の目的
AOCとしての資格そのものを放棄し、ワインを AOC から完全に外すための申告です。
申告後、そのワインは IGP/Vin de France/蒸留用アルコール原料などとして流通します。
どのような場合に行われるか
  • AOC条件に適合しない(例:過度の揮発酸、欠陥香、分析値違反)
  • 上限収量超過などの法令違反により、強制的に AOC 失格扱いになる場合
  • 契約生産者がバルクでワインを売り、最終用途を AOC外にする場合
  • 価格帯やブレンド用途の関係で、意図的に AOC表示を使わない選択をする場合
ポイント
  • AOCの名称を一切使用できなくなる
  • AOCの資格を失う手続きであり、「格下げ」ではなく「除外」

「地理的特性との関連性」という項目は、PDO(AOP)として登録される際に求められるものですよね。

「Lien avec la zone géographique(地理的特性との関連性)」は、PDO(AOP)登録申請において必須とされる項目であり、EU法に基づく正当化要件のひとつです。

制度上の位置づけ

PDO として EU に登録するためには、以下の内容を申請書に必ず含める義務があります。

必須項目 内容
1° 地理的区域の説明 区域の境界・気候・土壌・人的要素(栽培史・伝統技法など)
2° 製品の品質・特徴の説明 香味プロフィール、化学分析値、典型性など
3° 因果関係(Lien causal) 「その地域だから、その特徴が生まれる」ことの論証

この 3°の因果関係こそが「Lien avec la zone géographique」に相当し、製品特性と原産地との結びつきを証明する項目です。

PDO 登録において最も重視される要件が、この「因果関係の説明」であり、 これを十分に示すことができなければ PDO として承認されることはありません。

フランスワインにおいて、各 AOC の規定は必ず官報に掲載されますが、官報の情報をまとめて「仕様書(cahier des charges)」という形で整理する方式が採用されるようになったのは、いつごろからですか。

AOC の規定が「仕様書(cahier des charges)」という統一形式で整理されるようになったのは、2008〜2011年ごろと考えられます。

この時期に、フランス国内の AOC 文書が一斉に「仕様書方式」へ移行し、官報には 全文ではなく“仕様書を承認する法令(décret / arrêté)”のみを掲載する形式が確立しました。

主な根拠となる制度上の動き

年代 内容
〜2000年代前半 AOC の規定は官報に全文掲載されており、独立した仕様書という形は取られていなかった。
2008年 EU ワイン制度改革(Reg. 479/2008)。PDO/PGI 登録に製品仕様書(product specification)の提出が義務化。
2009〜2010年 フランスで AOC 仕様書を統一フォーマットで再編集する作業が開始。
2011年以降 EU のワイン GI データベース(当時は E-Bacchus。2019年以降は eAmbrosia に統合)において、PDO として登録される各産地の「cahier des charges(product specification)」が PDF 形式で公開されるようになった。

AOC が「仕様書」という形式を正式に採用したのは 2008〜2011年の制度移行期であり、EU の PDO 登録制度への対応が直接の契機となったと思われます。

そのため、2000年代前半以前の AOC 文書には「cahier des charges」という表題が存在せず、官報掲載の条文そのものが実質的な規定文書でした。

仕様書方式は、EU 申請・監査対応・改正作業の効率化のために導入されたものと理解できます。

AOC ワインでは、ぶどう品種・収量・最低アルコール度数・剪定法・醸造法などが仕様書で細かく規定されていますが、AOP の登録において求められるのは EU の包括的な規定に適合しているかどうかであり、細部の規定管理は各加盟国に委ねられていると考えていいでしょうか。

EU の AOP(PDO)制度は、統一的な原則と申請要件をEUレベルで定める制度ですが、具体的な生産条件の詳細設定と管理は加盟国の責任で行う仕組みになっています。

EU が求めるのは「制度条件への適合」

AOP 登録時に EU が審査するのは主に次の点です:

詳細な生産条件を定義するのは各国

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