ワインエキスパートに教わるワイン入門
ドイツのワイン産地
ドイツワインについて教えてください。
特定栽培地域(Bestimmter Anbaugebiete)と Landwein がつくられた経緯と、特定栽培地域と Landwein の生産区域がずれている理由も
背景と用語整理
- bestimmte Anbaugebiete(b.A.):1971年のドイツ連邦ワイン法(WeinG 1971)で定義された「特定栽培地域」。現在13地域が指定されており、2012年以降はEUの原産地名称保護制度(PDO, g.U.)に基づいて登録されている。
- Landwein:1982年のドイツ連邦ワイン法改正で導入された「地理的表示付きの上級テーブルワイン」。現在は26の Landweingebiete(Landwein 生産地)が指定されており、2008–2009年のEUワイン市場改革を経て、いずれもEUの地理的表示保護制度(PGI, g.g.A.)の枠組みに移行している。
特定栽培地域(b.A.)誕生の経緯
| 年 |
主な動き |
目的 |
根拠法規 |
| 1962 |
EWGワイン市場共同規則(Reg. 24/1962) |
原産地概念を各加盟国に要請 EWG(のちのEU) |
|
| 1971 |
ドイツ「ワイン法」制定 |
○地理的呼称と品質基準(Oechsle 最低糖度など)を結合
○“Qualitätswein b.A.” と“Prädikatswein”の格付け枠を創設 |
BGBl. I S. 893 |
| 1994 |
ワイン法全改正 |
Q.m.P. を Prädikatswein に呼称統一 |
WeinG 1994 |
| 2009–12 |
EU 新ワインCMO |
b.A. 名称をそのままPDO(g.U.)に昇格 |
EU Reg. (EC) 491/2009 |
Landwein 誕生の経緯
| 年 |
位置づけ |
主な条件(当初) |
| 1982 |
「上級テーブルワイン」カテゴリーを新設 |
①低めの 47–55°Oe
②アルコール8.5 %vol以上
③産地を明示し“trocken / halbtrocken”のみ |
| 1994 |
WeinG 改正 |
法体系をQbA→Landwein→Tafelweinと整理 |
| 2009 |
EU 品質階層統一 → g.g.A. へ |
○甘味度の制限緩和
○旧 Tafelwein が消滅した穴を埋める形で「Landwein Rhein」「Landwein Neckar」など4地域新設 |
生産区域がずれている理由
制度目的の相違
| 項目 |
b.A.(PDO) |
Landweingebiet(PGI) |
| 主眼 |
歴史的名声・厳格な品質管理 |
広域名・マーケティング柔軟性 |
| 区域設定 |
1960–70年代の伝統的産地を厳密に区画 |
州境・河川流域など行政/消費者に分かりやすい輪郭 |
- 13 b.A. はしばしば県境を跨ぐが、古い産地単位(例:モーゼル川上流→Mosel)が優先。
- Landwein Rhine, Oberrhein などは複数州をまとめた名称で、輸出マーケットで“ラインワイン”として認知されやすい。
- 北部や東部にはワイン産業が断続的だった地域が多く、b.A. に含まれていない。
- 1990年の東西統一後、Brandenburger Landwein や Mecklenburger Landwein で新興地域を公式化し投資を呼び込んだ。
- 2009年にTafelweinが消えたため、従来“Tafelwein Rheinpfalz”などで甘口を作っていた大手協同組合が販路を失う恐れ → Landwein Rhein/Neckar を追加し、甘口も許容。
Einzellage という用語は1969年ワイン法にはありませんが、1971年ワイン法で初めて数多くあった区画を調整して Einzellage が生まれたのですか?
1969年法では何が決まらなかったか
- 1969年7月に可決された旧ワイン法(WeinG 1969)は、1962年の欧州ワイン市場規則〔Reg. (EWG) Nr. 24/1962〕など初期の共同市場組織に対応するための骨格法で、品質区分や原産地表示の概念を示すだけで具体的な区画整理は州(ラント)に委ねていました。
- 文言上は「Weinbergslage(ワイン畑区画)」という総称を用いるだけで Einzellage/Großlage という用語は条文に登場しません。
- 各州が膨大な旧来の畑名(推計3万6千件)を整理しきれず、1969年法は全面施行に至らないまま 1971年改正へ引き継がれることになります。
1971年ワイン法で Einzellage が法定化
| 項目 |
内容 |
| 発効日 |
1971年7月19日(BGBl. I S. 893) |
| 階層 |
Anbaugebiet → Bereich → Großlage → Einzellage |
| 最小面積 |
原則5 ha(例外には州の特別認可が必要) |
| 手続 |
各州が「ワインベルクロール(Weinbergsrolle)」と「Lagenverordnung」を作成し、地籍図1 : 5 000で境界確定 |
- 同法と同時に公布された州別 Lagenverordnungenにより、Einzellage が初めて法的に定義されました。
- パーセル合わせやフルベレイニグ(Flurbereinigung)の過程で、30,000件を超えていた畑名は、まず約2,600件の Einzellage(単一畑)に整理され、その約2,600件がさらに約170件の Großlage(大区画)へとグループ化されました。
- 面積5 ha規定と最小ロット義務により、極小区画は隣接地に編入されるか名称を失いましたが、Walporzheimer Gärkammer など歴史的・質的に特別な例外も残りました。
区画整理(Namens-Flurbereinigung)の背景
- 流通の簡素化
- 百貨店・スーパーが扱える量を確保するため、大口ロットと「覚えやすい名前」を優先する政策が求められた(当時の消費拡大策)。
- 品質と表示の信頼回復
- 雑多な畑名が品質保証と対価を曖昧にし、輸出市場での信用低下を招いていた。
- 土地基盤整備との連動
- 1950年代以降のFlurbereinigungで農道整備・圃場拡大が進み、地籍見直しの好機となった。
1971年より前に特定栽培地域やベライヒに該当する地域区分はあったのでしょうか?
Böddiger Berg はラインガウの飛び地として認められていますが、ライン川の支流域でなくラインガウ中心部から随分離れています。どのように地域区分は決められたのでしょう。
1971年以前の「地域区分」年表
| 年 |
法令・制度 |
区分の呼称 |
主な内容 |
| 1909 |
帝国ワイン法(Weingesetz 1909) |
Weingebiet(ワイン産地) |
Mosel-Saar-Ruwer・Rheingau・Rheinpfalz など10余の地名を初めて国法で保護。表示は任意、境界は州慣行に依存。 |
| 1936 |
「ワイン表示令」改正 |
Weingebiet 表示を強制 |
ラベルに Weingebiet 名を書く場合は、州ごとの「Kartierungsblatt」で定める区域に限ると規定。 |
| 1969 |
新ワイン法(施行未了) |
bestimmtes Anbaugebiet の概念を初提示 |
11地域案を連邦法に盛り込むが、州の境界確定が間に合わず1971年へ持ち越し。 |
| 1971 |
ワイン法全面改正 |
Anbaugebiet → Bereich → Großlage → Einzellage |
州別 Lagenverordnung でパーセル精査を完了し、現行の4層区分が発効。 |
- Weingebiet(1909)=現在の Anbaugebiet の「前身」。名称は似ていたが法の拘束力は弱く、細部の線引きはばらばら。
- Bereich という中間階層は1971年に初登場。それ以前は組合名や河川流域名を慣用的に使うだけで、統一定義は無かった。
ラインガウの「飛び地」—Böddiger Berg のケース
| 事項 |
説明 |
| 所在 |
ヘッセン州フェルスベルク市 Böddiger、エーダー川右岸。面積約1.2 ha。 |
| 法的位置付け |
Großlagenfrei Rheingauer Einzellage(単一畑だがどの Großlage にも属さない) |
| なぜ Rheingau 扱い? |
ヘッセン州にはRheingau と Hessische Bergstraße の2 Anbaugebieteしかない。州内のワイン畑は必ずいずれかへ編入される仕組みで、北ヘッセンの Böddiger Berg は地理的連続性よりも行政上の割当てで Rheingau に組み込まれた。 |
| 選定手順 |
1971年の州 Lagenverordnung 作成時に、①気候・無霜期間などの客観的条件、②土壌・斜面向き、③1950年代以降の継続栽培実績や中世以来の歴史的記録、といった要素を総合して委員会が承認したとされます。その後 1970年代後半の訴訟でも、おおむね同様の位置付けが維持されました(具体的な判決年は資料により表記が揺れます)。 |
区域決定の基本ルール(1971 Lagenverordnung 以降)
- 州主体で境界案を作成し、連邦農業省へ届け出。
- 客観指標
- 気候(年平均気温や無霜期間、積算温度など)が、既存の産地と同程度にブドウ栽培に適していること
- 土壌条件や斜面向き・傾斜が、品質ワインの生産に適していること
- 伝統的実績:Einzellage は原則5 ha以上を目安とし、必要に応じて複数の Einzellage を束ねた Großlage を設定して市場で扱いやすいロットを確保する、という発想が採られました(具体的な平均面積やタンク容量との対応は文献により説明が異なります)。
1969の「新ワイン法(施行未了)」というのはEU法にあわせるため1971年法ができたからですか
結論
- はい。1969年ワイン法(WeinG 1969)は施行前にEU(当時はEWG)のワイン市場規則〔Reg. (EWG) 816/70・817/70〕と重複・矛盾する部分が多数生じたため、ドイツ政府はこれら欧州規則を取り込んだ新しい枠組みとして1971年ワイン法(WeinG 1971)を制定し、1969年法は予定されていた発効日前日に失効しました。
詳細タイムライン
| 年月 |
主な出来事 |
ポイント |
| 1969年7月16日 |
ドイツ連邦議会が WeinG 1969 を可決。 |
施行日は2年猶予を置き 1971 年7 月20 日 と設定(州が細則を準備する時間を確保)。 |
| 1970 年4 月28 日 |
EU 規則 816/70(共通市場補完規則) と 817/70(Qualitätswein 規則) が公布。加盟国に直接適用。 |
原産地表示・酒質基準・制裁などをEUレベルで統一。 |
| 1971年3月15日 |
連邦政府が 新 WeinG 1971 草案(Bundestag Drucksache VI/1963) を提出。 |
①EU規則で空白になった「国内裁量事項」を埋める、②1969年法を「発効日に同時廃止」する—と明記。 |
| 1971年7月19日 |
WeinG 1971 公布・即日施行。 |
“Tischwein→Tafelwein”への語改定、Bereich・Großlage・Einzellageの4層体系確定。EU規則817/70を明示的に「考慮」。 |
| 1971年7月20日 |
本来の WeinG 1969 施行予定日。 |
前日の WeinG 1971 第97条により 未施行のまま全条文失効。議会審議でも「69年法はE WGハーモナイズで実施不能」と記録。 |
施行未了となった直接要因
- EU規則の直接適用
- 816/70・817/70は加盟国法より優先。同一事項を規定していた1969年法条文が「適用不能」になった。
- 国内でしか定められない事項への対応
- EU規則は「国がリスト化せよ」「制裁を設けよ」という委任条項を多数含む。69年法には未整備だったため、新法で補った。
- 用語・区分のズレ解消
- 817/70がQualitätswein bestimmter Anbaugebieteを欧州法に格上げしたため、国内呼称や段階区分を修正する必要が生じた。
- 法技術的整理
- 69年法は2年の猶予条項で「未完成の細則」が多数。EU規則発効で一から書き直す方が早いと判断された。議会議事録も「69年法は実行不能」と確認。
WeinG 1971 はEU法への適合と国内細則整備を目的に生まれ、結果として69年法は“紙上の法律”で終わった。
Schloss Johannisberg や Schloss Vollrads といったワイナリーが Ortsteil になった経緯を調べてください。
Ortsteil 化の経緯
- 1968〜71 年のヘッセン州地域再編(Gebietsreform)で、城館と周辺耕地を1つの小地区(Ortsteil)として市町村台帳に登録し、歴史的ブランド名を地名として保護。
- 1971年ワイン法施行細則(州 Lagenverordnung)で、
- 「Ortsteil 名だけでラベル表示を許可する」特例を創設。
- Schloss Johannisberg/Schloss Vollrads/Schloss Reichartshausen/Steinberg の4名称を認定 Ortsteil に明記。
城館ワイナリーと城郭畑
| 概念 |
独語例 |
定義 |
用途 |
| 城館ワイナリー |
Schlossweingut |
城館・醸造所・蔵・付随畑を一体経営する生産者単位(例:Schloss Vollrads) |
生産者‐ブランドを語る時 |
| 城郭畑 |
umfriedete Lage/Clos |
石壁や堀で囲われた単一畑(例:Steinberg 37 ha) |
区画‐テロワールを語る時 |
Schloss Johannisberg と Schloss Vollrads の区画構造
| 項目 |
Schloss Johannisberg |
Schloss Vollrads |
| 行政区分 |
Geisenheim 市 Ortsteil |
Oestrich-Winkel 市 Ortsteil |
| 畑区分 |
Schloss Johannisberg の斜面全体が単一の Lage として扱われ、Großlage には属さない |
Schloss Vollrads は Oestrich-Winkel 市の Ortsteil で、その周囲には Dachsberg や Winkeler Schloßberg など複数の Einzellage が広がる。 |
| ラベル例 |
Schloss Johannisberg |
Schloss Vollrads / Winkeler Schlossberg |
- Schloss Johannisberg は Geisenheim 市の Ortsteil 名であり、ワイナリー名・歴史的な畑名とも重なって用いられる特例的なケース。
- Schloss Vollrads は Ortsteil の方が広く、複数 Einzellage を抱える。
ボルドー Château との比較
- Rheingau の特例は「“Château Lafite”を新しい集落名として登録し、単独原産地表示を許す」のと同じ発想で、ブランドと地名を重ねて保護する制度。
- 違い:ボルドーの Château は建築物要件が緩く畑が散在していても可。一方ドイツの Schloss 特例は行政地名・畑名の双方を公的に規定している。
Schloss Johannisberg と Schloss Vollrads に Einzellage はないとおもいます。添付したファイルを確認してください。
主要ポイントの整理
- Schloss Johannisberg と Steinberg はいずれも Geisenheim 近郊の Ortsteil であり、Hessen の Weinbergsrolle では「城館名そのものを地名として用いる特例」として扱われています(Einzellage としての扱いか、einzellagenfrei の Ortsteil としての扱いかは文献や資料によって表現が揺れます)。
- Schloss Johannisberg については、斜面全体を一つの Lage とみなす整理と、Ortsteil Schloß Johannisberg(einzellagenfrei)として扱う整理の両方が見られます。
- Schloss Vollrads は Oestrich-Winkel 市の Ortsteil で、その周囲には Dachsberg・Schloßberg など複数の Einzellage があり、歴史的にはそれらの畑名を用いて区別されてきました。
- Honigberg・Greiffenberg などは、これら Einzellage の内部区分(歴史的な小区画名)として扱われる場合が多く、独立した Einzellage 名としては登録されていません。
- 城館ワイナリーと城郭畑の区別
- 城館ワイナリー = 生産者主体(Schloss Johannisberg, Schloss Vollrads など)
- 城郭畑 = 石壁などで囲まれた物理的単一畑(Steinberg 37 ha など)
- Rheingau では「城館名を Ortsteil 化し、場合によっては単独地名表示を許可する」ことで、ブランドと地理表示を一体として保護する仕組みが取られています(発想としては、ボルドーで Château Lafite を新たな集落名にし単独表示を認めるのと同様)。
訂正とまとめ
- 以前述べた「Schloss Johannisberg は Einzellage を持つ」「Steinberg は Einzellage Steinberg」などの説明は、最新版 Weinbergsrolle では誤りでした。
- 正しくは 両者とも Einzellagenfrei であり、ラベルには Ortsteil 名だけを用いるか、サブ区画名(Oberberg ほか)を補う形が公式に認められています。
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- posted : 2025-07-02, update : 2025-11-23
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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