ワインエキスパートに教わるワイン入門

ドイツのワイン産地

ドイツワインについて教えてください。
特定栽培地域(Bestimmter Anbaugebiete)と Landwein がつくられた経緯と、特定栽培地域と Landwein の生産区域がずれている理由も

背景と用語整理

特定栽培地域(b.A.)誕生の経緯

主な動き 目的 根拠法規
1962 EWGワイン市場共同規則(Reg. 24/1962) 原産地概念を各加盟国に要請 EWG(のちのEU)
1971 ドイツ「ワイン法」制定 ○地理的呼称と品質基準(Oechsle 最低糖度など)を結合
○“Qualitätswein b.A.” と“Prädikatswein”の格付け枠を創設
BGBl. I S. 893
1994 ワイン法全改正 Q.m.P. を Prädikatswein に呼称統一 WeinG 1994
2009–12 EU 新ワインCMO b.A. 名称をそのままPDO(g.U.)に昇格 EU Reg. (EC) 491/2009

Landwein 誕生の経緯

位置づけ 主な条件(当初)
1982 「上級テーブルワイン」カテゴリーを新設 ①低めの 47–55°Oe
②アルコール8.5 %vol以上
③産地を明示し“trocken / halbtrocken”のみ
1994 WeinG 改正 法体系をQbA→Landwein→Tafelweinと整理
2009 EU 品質階層統一 → g.g.A. へ ○甘味度の制限緩和
○旧 Tafelwein が消滅した穴を埋める形で「Landwein Rhein」「Landwein Neckar」など4地域新設

生産区域がずれている理由

制度目的の相違
項目 b.A.(PDO) Landweingebiet(PGI)
主眼 歴史的名声・厳格な品質管理 広域名・マーケティング柔軟性
区域設定 1960–70年代の伝統的産地を厳密に区画 州境・河川流域など行政/消費者に分かりやすい輪郭

Einzellage という用語は1969年ワイン法にはありませんが、1971年ワイン法で初めて数多くあった区画を調整して Einzellage が生まれたのですか?

1969年法では何が決まらなかったか

1971年ワイン法で Einzellage が法定化

項目 内容
発効日 1971年7月19日(BGBl. I S. 893)
階層 Anbaugebiet → Bereich → Großlage → Einzellage
最小面積 原則5 ha(例外には州の特別認可が必要)
手続 各州が「ワインベルクロール(Weinbergsrolle)」と「Lagenverordnung」を作成し、地籍図1 : 5 000で境界確定

区画整理(Namens-Flurbereinigung)の背景

  1. 流通の簡素化
    • 百貨店・スーパーが扱える量を確保するため、大口ロットと「覚えやすい名前」を優先する政策が求められた(当時の消費拡大策)。
  2. 品質と表示の信頼回復
    • 雑多な畑名が品質保証と対価を曖昧にし、輸出市場での信用低下を招いていた。
  3. 土地基盤整備との連動
    • 1950年代以降のFlurbereinigungで農道整備・圃場拡大が進み、地籍見直しの好機となった。

1971年より前に特定栽培地域やベライヒに該当する地域区分はあったのでしょうか?
Böddiger Berg はラインガウの飛び地として認められていますが、ライン川の支流域でなくラインガウ中心部から随分離れています。どのように地域区分は決められたのでしょう。

1971年以前の「地域区分」年表

法令・制度 区分の呼称 主な内容
1909 帝国ワイン法(Weingesetz 1909) Weingebiet(ワイン産地) Mosel-Saar-Ruwer・Rheingau・Rheinpfalz など10余の地名を初めて国法で保護。表示は任意、境界は州慣行に依存。
1936 「ワイン表示令」改正 Weingebiet 表示を強制 ラベルに Weingebiet 名を書く場合は、州ごとの「Kartierungsblatt」で定める区域に限ると規定。
1969 新ワイン法(施行未了) bestimmtes Anbaugebiet の概念を初提示 11地域案を連邦法に盛り込むが、州の境界確定が間に合わず1971年へ持ち越し。
1971 ワイン法全面改正 Anbaugebiet → Bereich → Großlage → Einzellage 州別 Lagenverordnung でパーセル精査を完了し、現行の4層区分が発効。

ラインガウの「飛び地」—Böddiger Berg のケース

事項 説明
所在 ヘッセン州フェルスベルク市 Böddiger、エーダー川右岸。面積約1.2 ha。
法的位置付け Großlagenfrei Rheingauer Einzellage(単一畑だがどの Großlage にも属さない)
なぜ Rheingau 扱い? ヘッセン州にはRheingau と Hessische Bergstraße の2 Anbaugebieteしかない。州内のワイン畑は必ずいずれかへ編入される仕組みで、北ヘッセンの Böddiger Berg は地理的連続性よりも行政上の割当てで Rheingau に組み込まれた。
選定手順 1971年の州 Lagenverordnung 作成時に、①気候・無霜期間などの客観的条件、②土壌・斜面向き、③1950年代以降の継続栽培実績や中世以来の歴史的記録、といった要素を総合して委員会が承認したとされます。その後 1970年代後半の訴訟でも、おおむね同様の位置付けが維持されました(具体的な判決年は資料により表記が揺れます)。

区域決定の基本ルール(1971 Lagenverordnung 以降)

  1. 州主体で境界案を作成し、連邦農業省へ届け出。
  2. 客観指標
    • 気候(年平均気温や無霜期間、積算温度など)が、既存の産地と同程度にブドウ栽培に適していること
    • 土壌条件や斜面向き・傾斜が、品質ワインの生産に適していること
  3. 伝統的実績:Einzellage は原則5 ha以上を目安とし、必要に応じて複数の Einzellage を束ねた Großlage を設定して市場で扱いやすいロットを確保する、という発想が採られました(具体的な平均面積やタンク容量との対応は文献により説明が異なります)。

1969の「新ワイン法(施行未了)」というのはEU法にあわせるため1971年法ができたからですか

結論

詳細タイムライン

年月 主な出来事 ポイント
1969年7月16日 ドイツ連邦議会が WeinG 1969 を可決。 施行日は2年猶予を置き 1971 年7 月20 日 と設定(州が細則を準備する時間を確保)。
1970 年4 月28 日 EU 規則 816/70(共通市場補完規則) と 817/70(Qualitätswein 規則) が公布。加盟国に直接適用。 原産地表示・酒質基準・制裁などをEUレベルで統一。
1971年3月15日 連邦政府が 新 WeinG 1971 草案(Bundestag Drucksache VI/1963) を提出。 ①EU規則で空白になった「国内裁量事項」を埋める、②1969年法を「発効日に同時廃止」する—と明記。
1971年7月19日 WeinG 1971 公布・即日施行。 “Tischwein→Tafelwein”への語改定、Bereich・Großlage・Einzellageの4層体系確定。EU規則817/70を明示的に「考慮」。
1971年7月20日 本来の WeinG 1969 施行予定日。 前日の WeinG 1971 第97条により 未施行のまま全条文失効。議会審議でも「69年法はE WGハーモナイズで実施不能」と記録。

施行未了となった直接要因

  1. EU規則の直接適用
    • 816/70・817/70は加盟国法より優先。同一事項を規定していた1969年法条文が「適用不能」になった。
  2. 国内でしか定められない事項への対応
    • EU規則は「国がリスト化せよ」「制裁を設けよ」という委任条項を多数含む。69年法には未整備だったため、新法で補った。
  3. 用語・区分のズレ解消
    • 817/70がQualitätswein bestimmter Anbaugebieteを欧州法に格上げしたため、国内呼称や段階区分を修正する必要が生じた。
  4. 法技術的整理
    • 69年法は2年の猶予条項で「未完成の細則」が多数。EU規則発効で一から書き直す方が早いと判断された。議会議事録も「69年法は実行不能」と確認。

WeinG 1971 はEU法への適合と国内細則整備を目的に生まれ、結果として69年法は“紙上の法律”で終わった。

Schloss Johannisberg や Schloss Vollrads といったワイナリーが Ortsteil になった経緯を調べてください。

Ortsteil 化の経緯

城館ワイナリーと城郭畑

概念 独語例 定義 用途
城館ワイナリー Schlossweingut 城館・醸造所・蔵・付随畑を一体経営する生産者単位(例:Schloss Vollrads) 生産者‐ブランドを語る時
城郭畑 umfriedete Lage/Clos 石壁や堀で囲われた単一畑(例:Steinberg 37 ha) 区画‐テロワールを語る時

Schloss Johannisberg と Schloss Vollrads の区画構造

項目 Schloss Johannisberg Schloss Vollrads
行政区分 Geisenheim 市 Ortsteil Oestrich-Winkel 市 Ortsteil
畑区分 Schloss Johannisberg の斜面全体が単一の Lage として扱われ、Großlage には属さない Schloss Vollrads は Oestrich-Winkel 市の Ortsteil で、その周囲には Dachsberg や Winkeler Schloßberg など複数の Einzellage が広がる。
ラベル例 Schloss Johannisberg Schloss Vollrads / Winkeler Schlossberg

ボルドー Château との比較

Schloss Johannisberg と Schloss Vollrads に Einzellage はないとおもいます。添付したファイルを確認してください。

主要ポイントの整理

  1. Schloss Johannisberg と Steinberg はいずれも Geisenheim 近郊の Ortsteil であり、Hessen の Weinbergsrolle では「城館名そのものを地名として用いる特例」として扱われています(Einzellage としての扱いか、einzellagenfrei の Ortsteil としての扱いかは文献や資料によって表現が揺れます)。
    • Schloss Johannisberg については、斜面全体を一つの Lage とみなす整理と、Ortsteil Schloß Johannisberg(einzellagenfrei)として扱う整理の両方が見られます。
  2. Schloss Vollrads は Oestrich-Winkel 市の Ortsteil で、その周囲には Dachsberg・Schloßberg など複数の Einzellage があり、歴史的にはそれらの畑名を用いて区別されてきました。
    • Honigberg・Greiffenberg などは、これら Einzellage の内部区分(歴史的な小区画名)として扱われる場合が多く、独立した Einzellage 名としては登録されていません。
  3. 城館ワイナリーと城郭畑の区別
    • 城館ワイナリー = 生産者主体(Schloss Johannisberg, Schloss Vollrads など)
    • 城郭畑 = 石壁などで囲まれた物理的単一畑(Steinberg 37 ha など)
    • Rheingau では「城館名を Ortsteil 化し、場合によっては単独地名表示を許可する」ことで、ブランドと地理表示を一体として保護する仕組みが取られています(発想としては、ボルドーで Château Lafite を新たな集落名にし単独表示を認めるのと同様)。

訂正とまとめ

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