ワインエキスパートに教わるワイン入門

ぶどう栽培の歴史と拡大

ぶどうが栽培されるようになり、各地に広がっていった過程を教えてください。

概要

起源と「二元栽培化」

ネオリシック農耕民とともに西進(紀元前7,000〜4,000年ごろ)

青銅器時代の技術革新と地域的定着

フェニキア人・ギリシア植民市による地中海伝播(紀元前1,000〜500年ごろ)

ローマ帝国による大規模拡張(紀元前1世紀〜西暦4世紀ごろ)

ローマ後〜中世:修道院ネットワークと北方進出(西暦5〜15世紀ごろ)

まとめ

「西アジア(小アジア〜レヴァント)」と「南コーカサス」は現在の国で言えばどこになりますか?
ぶどう栽培が広がっていった国を西アジアから時系列で並べることはできますか。

起源地域を現在の国名で示すと

歴史地理用語 現在の国・地域 補足
小アジア(アナトリア) トルコ 南東部(ディヤルバクル県周辺)が初期栽培のコアとされる
レヴァント イスラエル、パレスチナ、レバノン、ヨルダン、シリア 遺伝的には「西アジア系」食用品種の故郷とされる
南コーカサス ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン ワイン用品種の起源とするモデルが有力

南東アナトリア vs. レヴァント ─ どちらが先か?

西アジアからの拡散タイムライン(最古の“栽培・醸造”証拠が出た国を年代順に列挙)

年代(BCE 現在の国 主要遺跡・証拠 コメント
約8,000 トルコ Çayönü・Nevali Çori:野生ブドウ種子の出土(野生利用段階と解釈されることが多い) 野生ブドウ利用の早期例
6,000 ジョージア シュラヴェリ=グラチェンリ:大型壺内の酒石酸残留物=最古級のワイン痕跡 ネオリシック期におけるワインづくりの成立
5,400–5,000 イラン ハッジ・フィルーズ・テペ:9 L壺の酒石酸+樹脂 保存用に松脂を添加
4,500–4,000 ギリシア ディキリ・タシュ:圧搾粕と発酵容器4500 BC - The First Evidence of Vinification - Wines of Greece エーゲ海最古の醸造施設
4,100 アルメニア アレニ-1洞窟:踏み桶・発酵槽・種子完備の「世界最古のワイナリー」 技術的に高度
4,000 イタリア(シチリア) モンテ・クロニオ洞窟:壺底残渣がワイン由来 西地中海への最古例
3,500–3,000 キプロス エリミ村の壺18点中12点に酒石酸(伊研究)Cyprus 'first to make wine' - Decanter 地中海島嶼へ伝播
900–770 スペイン(ウエルバ周辺) フェニキア・ギリシア・キプロス・サルデーニャ系のアンフォラが集中出土=ワイン輸入と初期栽培の導入期と解釈される イベリア半島最古級の栽培・醸造痕跡
600 フランス(プロヴァンス) マッサリア(マルセイユ):ギリシア人が葡萄園造成 ガリア南部起点
1世紀以降 ドイツ・英国ほか ローマ軍駐屯地跡の圧搾所・アンフォラ群(ライン川上流など) 帝国の北方拡大

※年代は、栽培化または醸造に関わる物証が得られた最古級の事例を中心に採用し、一部に野生利用のみだが栽培化の前提となる重要例(前8,000年頃の Çayönü など)を参考として含めた。前9,000年頃のエリコのように野生利用だけが確認されている例は本文で言及するに留めた。

ポイントまとめ

南コーカサスで生まれたワイン用品種はあまり広がっていないことを考えると、「南コーカサスの醸造技術」だけが各地に広がることはなく、他の地域の醸造技術の発展には関与していないと思います。

南コーカサス品種はなぜ域外で主流にならなかったか

醸造技術が「輸出」されなかった理由

  1. 容器様式の地域依存
    • クヴェヴリ(地中埋設卵形甕)はジョージア固有で、歴史的に他地域へ普及した形跡が乏しい。
    • 地中海では上部に把手を持つ輸送用アンフォラ、イラン高原では松脂入り壺酒など、用途・形状がまったく異なる陶器体系が並行発達。
  2. 交易は“完成品”中心
    • 青銅器時代にはアルメニア高地産のワインがメソポタミアへ大量に輸出されていたと考えられているが、考古学的に確認できるのは完成したワインを収めた容器であり、苗木や醸造設備が体系的に移植されたことを示す直接証拠はほとんどない。
  3. 後続技術の独立進化
    • エーゲ海では前4000年紀後半に圧搾槽と貯蔵アンフォラが自律的に普及。
    • 古代ローマは木製プレス・樽・標準化アンフォラを発達させ、地中海の醸造規範を塗り替えた。
      →コーカサス型の発酵容器や醸造手順が直接取り込まれた痕跡は考古学的に確認されていない。

影響の整理(要点)

項目 南コーカサスの実態 他地域への波及 評価
主要品種 500+固有、国内消費中心 サペラヴィなど少数のみ拡散 影響は限定的
発酵容器 地中埋設クヴェヴリ 地中海では採用例なし 局地的伝統
交易形態 完成酒の輸出(アルメニア→メソポタミア) 苗木・技術の明確な移植証拠なし 技術伝播は不確実
遺伝子痕跡 西欧品種と遠縁関係 直接親子関係は希薄 品種貢献も小規模

結論

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