ワインエキスパートに教わるワイン入門
1855年の格付け 2
Dewey Markham 著『1855: A History Of The Bordeaux Classification』には、「ジロンド県知事のド・メントク氏は、1854年12月17日、ボルドー商工会議所に宛てて書簡を送り、1855年のパリ万国博覧会を見据え、県産赤ワインの格付けと、地方の最良白ワインの一覧を作成するよう求めました」と記されていますが、これは知事の一存で格付けが作られたということなのでしょうか。
一次史料の精査と近年の研究(野村 2012)によれば、この理解は正確ではありません。
野村啓介(2012a)「1855年のパリ万国博覧会準備にみるジロンド県万博委員会とワイン出品問題」『国際文化研究科論集』19, pp.91–102.
野村啓介(2012b)「1855年のパリ万国博覧会準備におけるジロンド県産ワイン出品―その決定プロセスにみる県万博委員会委員長 A. Gautier の役割―」『国際文化研究科論集』20, pp.59–72.
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/66780/files/1341-0857-2012-20-59.pdf
1854年12月17日の知事書簡は、帝国万博委員会からの通達に応じて
「県として出品準備を進めよ」
と商工会議所に通知した行政文書です。
この段階では、知事が“格付けを作れ”と具体的に命じたわけではありません。
実際にワイン出品が議題として動き始めたのは、県万博委員会 第4回会議(1854年11月7日)であり、この会議では
- A. Gautier(委員長・ボルドー市長) が議事を主導
- ジョンストンを含む商工会議所の構成員は欠席
- 委員会側が「ワイン出品の必要性」「集団的出品」の方針を形成
という経緯が確認されています。
その後、県万博委員会は「ワイン出品の実務はボルドー商工会議所に委任すべき」と結論し、1854年12月28日付で Gautier が委任を文書化しました。
もしご希望であれば、県万博委員会がワイン出品問題を初めて議題にした1854年11月7日から、仲買人リストが提出された1855年4月18日までの経緯を、一次史料にもとづいて時系列表に整理できますが、作成しますか?
お願いします。
では、1854年11月7日から1855年4月18日までのボルドー格付け成立経緯を、確認できる一次史料・文献に基づいて時系列表に整理します。
1854年11月7日〜1855年4月18日
| 日付 |
出来事 |
出典・根拠(確実性) |
| 1854年11月7日 |
県万博委員会(Commission départementale)第4回会議で初めて「ワイン出品」が正式議題となる。他地域の準備状況に触れつつ、県を代表する産品としてワインを含めるべきとの意見が確認される。 |
野村論文(一次史料:県万博委員会議事録) |
| 1854年11月〜12月 |
県万博委員会内で「個別出品ではなく、県として集団的に出品する」方針が形成される。 |
同上(議事録) |
| 1854年12月17日 |
県知事ド・メントクが商工会議所へ書簡を送付。内容は帝国万博委員会の通達に基づく出品準備協力の要請で、この段階では格付けという語は出てこない。 |
一次史料:知事書簡/野村論文 |
| 1854年12月28日 |
県万博委員会がボルドー商工会議所に「ワイン出品の実務を委任する」ことを決定し、委任状を発出。文案を作成した中心人物は委員長 A. Gautier(ボルドー市長)と推定される。 |
野村論文(一次史料:委任文書・Gautier の日記『Mémorandum』) |
| 1854年12月〜1855年4月 |
商工会議所が県からの委任のもと出品方法を検討したことが推察される。利害対立の大きいワイン分類の判断を自ら行うのではなく、専門性の高いワイン仲買人組合に委ねる方向性を検討したとみられる。 |
1855年4月18日 仲買人書簡の記述(間接史料) |
| 1855年4月5日 |
商工会議所が仲買人組合に正式依頼。書簡では、ジロンド県の「すべての crus classés」について「正確で完全なリスト」を求めるとともに、「それぞれが五つの classes のうちどれに属するか」を明示するよう要請している。また、ソーテルヌ/バルサックの grands vins blancs についても級区分の提示を求めていたことが、後年の引用・要約から確認できる。 |
1855年4月5日付 商工会議所書簡(Bruno Prats による引用)/1855年4月18日付 仲買人書簡冒頭(5日付書簡への言及) |
| 1855年4月5〜17日 |
仲買人組合が市場価格(commercial value)に基づき格付け表を作成。赤ワインは5級、甘口白は3級とする。 |
仲買人組合の清書リスト(現存史料) |
| 1855年4月18日 |
仲買人組合が商工会議所へ書簡と格付け表(手書き清書)を提出。「最終判断は商工会議所に委ねる」と明記される。 |
一次史料:1855年4月18日付 仲買人書簡 |
| 1855年4月18日以降 |
商工会議所が格付け表を採用し、県万博委員会へ返送。以後、どの形式で万博側へ提出されたかは一次史料で未確認。展示パネルの可能性はあるが、印刷パンフレットは確認されていない。 |
野村論文・マーカム・博覧会公式報告書の沈黙(不明確であることが確実) |
ジロンド県では、1855年パリ万博の出品品目のひとつとしてワインが選ばれ、それとは別に格付けの作成も行われたということですか。
はい、その通りです。
ワインが出品品目として選ばれたのは1854年11月7日の県万博委員会であり、
格付けの作成はその後の出品準備の過程で商工会議所が採用した方式として現れたものです。
万博に出品されたワインは格付けワインだけではなく、また格付けワインがすべて出品されたわけではないですよね。
1855年パリ万博のジロンド県出品ワインには、格付け対象外の銘柄も含まれていました。
また、格付け一覧に掲載されたすべてのワインが万博に出品されたわけではありません。
出品に関して個々の生産者がどのような判断を行ったかを示す一次史料は、ほとんど残っていませんが、当時の一般的事情からみて、費用負担・輸送リスク・市場供給の優先などが判断要因になったと考えられます。
1855年の格付けで、各級内の並び順がそのまま各級内の順位だと誤解されたのは、なぜですか?
結論(公式見解)
1855年格付けは同一級内に序列を設けていません。ボルドー商工会議所は1855年9月19日の会議で、仲買人組合長(9月16日付書簡)の趣旨――「同一級内の諸クリュは同等の価値と見なす」――を受け、各級の並びはアルファベット順にすると決定しています。
Le syndic des courtiers écrit, sous la date du 16 septembre, pour faire connaître que l’intention du syndicat, en rédigeant la liste des vins classés du département de la Gironde, n’a point été d’assigner un degré de supériorité à aucun de ceux qui sont compris dans chaque classe ; ils sont regardés comme étant d’un mérite égal.
D’après cette communication, la Chambre décide que, pour chacune des classes, les crus seront rangés suivant l’ordre alphabétique dans l’énumération qui devra servir à la publication de la carte vinicole du département.
仲買人組合代表は、9月16日付で書き送り、次のことを知らせています――すなわち、組合がジロンド県の格付けワイン一覧を作成するにあたり、各級に含まれているいずれのものにも優越の程度を割り当てる意図はまったくなかったということです。これらは同等の功績(価値)を有すると見なされています。
この通知にもとづき、会議所は、各級について、そのクリュを、県のワイン地図を公表するために用いられる列挙においてアルファベット順に配列することを決定しています。
誤解が広まった主な理由
- 掲載方法のブレ(初期掲示の並びと誤解)
- 開幕当初に用いられた仲買人提出表の並びは、必ずしもアルファベット順ではありませんでした。たとえば Premiers Crus の実際の記載順は
Lafite → Margaux → Latour → Haut-Brion。
これは「Château」を除いた本体名でのアルファベット順(H → L → L → M)とも、厳密な地理順(北→南)とも一致しません。こうした便宜的な配列(加えて地理別の欄分けや所有者名併記の方式の違い)が、**“並び=序列”**という誤解を生みやすくしました。
- 市場価格の“非公式序列”の存在
- 格付けは長年の平均取引価格を根拠に作られたため、同級内でも実勢価格に差がありました。商人・記者が価格や人気で語るうちに、“同級内序列”という物語が強化されました。
- 用語の連想効果
- “Premier/Deuxième/… Cru”という階層語が強烈で、読者は級の中にも順番があると連想しがちでした。
- 再録・ガイドの編集慣行
- 後年の地図・ガイド・雑誌が一定の「見栄え順」(知名度・価格・地理)で並べ直し、アルファベット順という原則の注記を省略。この再生産が誤解を定着させました。
- 例外表示の誤読
- ソーテルヌでの“Premier Cru Supérieur(イケム)”のような特例表示が、「他の級や同級内にも細かい序列がある」との一般化を誘いました。
正しい読み方(実務上の指針)
- 級間の上下(1〜5級など)はあるが、同一級内に優先順位はない。
- 同級内の並びはアルファベット順(地域区分を挟む場合は区分内でアルファベット)が原則。
- 価格や人気による“市場上の序列”と制度上の序列を混同しない。
1855年の格付けで「同級内は順位を付けず、掲示・印刷はアルファベット順」とする決定は9月の商工会議所議事録ですよね。万博は5月開幕ですが、開幕時の会場掲示はどうなっていましたか。
- 4月18日:仲買人が格付け表を提出。並べ方の統一ルールは未決。
- 5月15日開幕〜11月15日閉幕の会期のうち、とくに開幕〜夏にかけて:会場掲示や再録は、仲買人表の慣例順・地理順を踏襲した可能性が高い=必ずしもアルファベット順ではない。ここで「並び=順位」の誤解が生じやすい。
- 9月16〜19日:仲買人組合が「同級内は同格」と通達。商工会議所が、県ワイン地図を公表するために用いる格付けの列挙について「各級内はアルファベット順」と決定。以後、とくに県ワイン地図およびそれに準拠した格付け表の再録では、この原則が標準になっていったと考えられます(会場内の掲示すべてについては一次史料が乏しく、ここは仮説段階です)。
1855年のリストでワイン名に Château が付いているのは5つだけです。
ワイン名の前に付した数字は、各級内の銘柄数を把握しやすくするための便宜的な表示です。
- 赤ワイン
- 4+12+14+11+17=58
- 57 + Cantemerle で「58」ということだと思います。
- 白ワイン
- 1+9+11=21
Vins Rouges Classés du Département de la Gironde 1855
- Premiers Crus
-
- Château Lafite - Pauillac
- Château Margaux - Margaux
- Château Latour - Pauillac
- Haut Brion - Pessac
- Seconds Crus
-
- Mouton - Pauillac
- Rauzan Ségla - Margaux
- Rauzan Gassies - Margaux
- Léoville - Saint-Julien
- Vivens Durfort - Margaux
- Gruau Laroze - Saint-Julien
- Lascombe - Margaux
- Brane - Cantenac
- Pichon Longueville - Pauillac
- Ducru Beau Caillou - Saint-Julien
- Cos Destournel - Saint-Estèphe
- Montrose - Saint-Estèphe
- Troisièmes Crus
-
- Kirwan - Cantenac
- Château d'Issan - Cantenac
- Lagrange - Saint-Julien
- Langoa - Saint-Julien
- Giscours - Labarde
- Saint Exupéry - Margaux
- Boyd - Cantenac
- Palmer - Cantenac
- Lalagune - Ludon
- Desmirail - Cantenac
- Dubignon - Margaux
- Calon - Saint-Estèphe
- Ferrière - Margaux
- Becker - Margaux
- Quatrièmes Crus
-
- Saint Pierre - Saint-Julien
- Talbot - Saint-Julien
- Du Luc - Saint-Julien
- Duhart - Pauillac
- Poujet Lassale - Cantenac
- Poujet - Cantenac
- Carnet - Saint-Laurent
- Rochet - Saint-Estèphe
- Château de Beychevelle - Saint-Julien
- Le Prieuré - Cantenac
- Marquis de Thermes - Margaux
- Cinquièmes Crus
-
- Canet - Pauillac
- Batailley - Pauillac
- Grand Puy - Pauillac
- Artigues Arnaud - Pauillac
- Lynch - Pauillac
- Lynch Moussas - Pauillac
- Dauzac - Labarde
- Darmailhac - Pauillac
- Le Tertre - Arsac
- Haut Bages - Pauillac
- Pédescleaux - Pauillac
- Coutenceau - Saint-Laurent
- Camensac - Saint-Laurent
- Cos Labory - Saint-Estèphe
- Clerc Milon - Pauillac
- Croizet Bages - Pauillac
- Cantemerle - Macau
Vins Blancs Classés de la Gironde 1855
- Premier Cru Supérieur
-
- Yquem - Sauternes
- Premiers Crus
-
- Latour Blanche - Bommes
- Peyraguey - Bommes
- Vigneau - Bommes
- Suduiraut - Preignac
- Coutet - Barsac
- Climens - Barsac
- Bayle - Sauternes
- Rieusec - Sauternes
- Rabeaud - Bommes
- Deuxièmes Crus
-
- Mirat - Barsac
- Doisy - Barsac
- Pexoto - Bommes
- d'Arche - Sauternes
- Filhot - Sauternes
- Broustet Nérac - Barsac
- Caillou - Barsac
- Suau - Barsac
- Malle - Preignac
- Romer - Preignac
- Lamothe - Sauternes
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- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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