ワインエキスパートに教わるワイン入門
アイスワイン
アイスワインについて調べてください。アイスワインが造られるようになった経緯と、どこで造られているかを
そもそもアイスワインとは
真冬の夜明け前、外気温がおおむね −7〜−8 ℃以下に下がるタイミングまでブドウを樹上に残し、凍った状態のまま収穫・圧搾して造る極甘口ワインです。水分が氷結するため凝縮した果汁しか取れず、収量もわずかですが、その分だけ蜜のような濃さと鋭い酸味が共存します。
造られるようになった経緯(物語調でたどる発祥)
- 遠い前史 – ローマ時代の記録
プリニウスや詩人マルティアリスが「霜が降りるまで収穫を遅らせたブドウ」の酒を称えたとの記述が残りますが、その製法は途絶えました。
- 近代の再発見 – 1794年フランケンと1830年ドロメルスハイム
1794年のバイエルン・フランケンで偶然凍ったブドウを搾ったという伝承の後、1830年2月11日、ラインヘッセンのドロメルスハイムで家畜の餌に残していた凍結ブドウを試しに搾ったところ非常に甘い果汁が得られた――これが文書で確認できる最初の「Eiswein」です。Deutsches Weininstitut: Eiswein
- 技術革新と量産への道 – 1960年代
1961年、ドイツで空気圧式バルーンプレスが導入され、硬い氷の粒を一気に搾れるようになると生産が現実的になり、Eisweinは高級甘口ワインの一ジャンルとして定着しました。
- カナダの挑戦と世界的ブレイク
1970年代にオンタリオの生産者が試作を始め、イニスキリンは1984年にネットで鳥害を防ぎながら初めて商業的収穫に成功。1989年ヴィダル・アイスワインが1991年ボルドー・ヴィネクスポでグランプリを獲得し、世界の注目を集めます。Our Story | Inniskillin
- 気候変動の影
ドイツでは最低 −7 ℃まで下がらない年が増えており、2019年ヴィンテージについては、当初ドイツ・ワインインスティトゥートが「アイスワインは生産されない見込み」と発表し、Decanter などでも「史上初の“アイスワインなし”ヴィンテージ」と報じられました。
ただしその後の寒波でごく少数(4軒)の生産者が Eiswein の収穫に成功したことが公表されており、現在の情報に基づくと「全国で一切造られなかった」という表現は修正が必要です。Climate change blamed for German ice wine 2019 failure - Decanter
現在アイスワインが造られている主な地域
ほかにハンガリー、スロバキア、スイス、日本などでも“凍結年”に限定的に造られますが、定常的に市場へ出る量は上記の国々が中心です。
空気圧式バルーンプレスが導入される前は、どのように搾っていたのでしょうか?バスケットプレスでは搾れないのですか。
1. 1960年代以前──凍ったブドウをどうやって搾っていたか
- 主役は縦型スクリュー(スピンドル)式“コバンザメ”プレス
ドイツやオーストリアでは、木枠あるいは鋳鉄枠のバスケットに果房を詰め、上からねじ込み式の円盤で少しずつ圧を掛ける古典的なスピンドル(Spindelpresse)が使われていました。凍結果は砕けず大理石の球のように振る舞うため、圧を掛けても最初はほとんど汁が出ない。
- 出汁が流れ始めたらいったん止め、ケーキを崩して再充填──これを夜明け前の氷点下セラーで何度も繰り返します。
- 標準的な手順(バイエルン州の技術指針)では「ケーサー容量の2/3まで充填→圧を掛けて流れが止まったらケーキを砕く→再圧搾」を数サイクル続け、総所要4〜6時間、歩留まり5〜15%が目安とされています。Tipps zur Eisweinbereitung
- 作業が遅いと“ケーキが再凍結”して全面ブロック
バスケットの隙間や木目に残った薄い果汁が瞬時に凍り付き、ジュースの逃げ道を塞いでしまいます。力任せに締め上げると木枠が割れ、金属枠でもネジが曲がることがありました。したがって19世紀〜1950年代のEisweinは「運良く凍結が緩い年にだけ少量とれる贅沢品」だったわけです。
2. バスケットプレスで“絞れない”わけではないが…
- 技術指針も「コルプ(バスケット)使用可だが危険」と明言
−7 ℃以下の硬凍果を長時間押さえつけると内部・外周ともに“氷の壁”が発生しやすく、ジュースが全く抜けなくなる=“Vereisung”と警告されています。
- 小規模な実験では今も木製バスケットを使う造り手がいますが、
- 仕込み量を30〜40 L以下に抑える
- 圧力を段階的に上げ30分ごとにケーキを解体
- 作業全体を2〜3 時間以内に終える
──など厳しい条件付き。商業ロットで安定した歩留まりを得るのは現実的ではありません。
3. 空気圧式バルーンプレス(膜・チューブプレス)の登場と革命
- 空気圧式バルーンプレス(膜・チューブプレス)は、1951年にドイツの Willmes 社が世界初の空気圧式ぶどうプレスを発売したのが出発点とされています。その後 1950〜60年代にかけてドイツやフランスを含むヨーロッパ各地に普及し、Eiswein 用の搾汁効率が大幅に向上しました。
内部のゴム膜を膨らませて“外側の穴あきドラム”にブドウを優しく押し付ける方式は、面圧が均一で氷結粒子の間に隙間を作りながら搾れるため、従来比で2〜3倍の速度と歩留まりを実現しました。
- 文献ベースで見ると、19世紀から1950年代までに記録されているアイスヴァインのヴィンテージはごく限られており、商業的には“きわめて稀な特別品”という位置付けでした。
一方、空気圧式プレスが普及する1960年代以降は、(少なくとも凍結が起きた年には)ドイツ各地でアイスヴァインが仕込まれることが一般的になっていきます。
- それでも限界はある
−20 ℃近くになると空気圧プレスの鋼フレームさえ変形する例があり、カナダ・ナイアガラのVineland Estatesは1990年代に実際にプレスを破損しています。
4. まとめ
- 1950年代までは縦型スクリュー(実質バスケット)プレスが主な手段で、数時間かけてもわずか5〜15%しか搾れず、凍結が深い年は物理的に不可能だった。
- バスケットプレスでも理屈上は搾れるが、氷塞や機械破損のリスクが高く、現在の商業生産ではほぼ用いられない。
- 空気圧式バルーンプレスの普及した1960年代以降、Eiswein 用の搾汁効率が大きく改善し、“凍る年であれば各地でEisweinを仕込んでみる”という発想が現実的になりました。
これが「バルーンプレス以前・以後」の差異と、バスケットプレスが敬遠される理由です。
圧搾後の果汁はかなり冷たいと思いますが、自然にあたたまるのを待つのでしょうか。また、発酵には培養酵母を使うのでしょうか。アイスワイン向けの酵母がありますか。
圧搾後の果汁はどう扱われるか
- 温度は氷点下のまま
凍ったブドウを−7 ℃前後で搾るため、出てくる果汁もほぼ同じ温度です。硬い氷粒が残り、歩留まりは10〜20 %程度にすぎません。Ice Wine, You're So Fine (A Detailed Guide) | Wine Folly
- まずは“自然解凍+清澄”
果汁はステンレスタンクに取り込み、24〜72時間かけて0〜4 ℃付近までゆっくり温度を上げつつ粗い澱を沈めます(コールドセトル)。急加温すると香気成分が揮散しやすいため、ここは時間を味方にする工程です。
- 発酵開始前に15〜20 ℃へプレウォーム
清澄後にラッキングして、ジャケットタンクや温水熱交換器で15〜20 ℃に引き上げてから酵母を接種するのが一般的です。自重で放置し自然に20 ℃近くまで上げる蔵もありますが、商業的には温調で日程を短縮する方が主流です。自家醸造向けの手順書でも「仕込み前に果汁を20 ℃まで温めておく」ことが推奨されています。
発酵に使う酵母——野生か培養か
- 高糖度ゆえ野生酵母では危険
アイスワインの果汁は35〜45 °Brixと極端に濃く、浸透圧で酵母がストレスを受けやすい上、窒素も不足しがちです。自然発酵に任せると途中で失速する(いわゆるスタック)リスクが高いため、商業メーカーのほとんどは培養酵母を高添加量で接種します。Wikipedia などの解説記事でも「特別に選抜された酵母株を用いるべき」と明記されています。Ice wine - Wikipedia
- 使用方法のポイント
- 高用量接種:通常の倍(30 g/hL前後)
- スターター段階的希釈:20 °Brix→原果汁へと徐々に慣らす。
- 栄養補給:DAPやGoFermを早期に投入し、後半は過剰添加を避ける。
- 発酵温度:18〜20 ℃で立ち上げ、酵母が安定したら13〜17 ℃へ下げ長期管理(3〜6か月)Tips for processing ice wine must – Erbslöh Geisenheim
まとめ
- 搾った直後の果汁は氷点下のままタンクに入り、まず低温清澄。その間に自然または温調でゆっくり解凍し、酵母接種前に15〜20 ℃まで上げる。
- 高糖度・低窒素という過酷環境のため、浸透圧耐性と低温耐性を備えた培養酵母が必須。EC-1118やOenofermシリーズなど、アイスワイン用途に特化した株が複数市販されている。
- 十分な酵母量、段階慣養、適切な栄養管理を行えば、6〜10 %vol前後で発酵を止め、高い残糖と鮮烈な酸を両立したアイスワインに仕上がる。
自然解凍という表現はおかしくありませんか?果汁は凍ってはいないと思います。
圧搾で得られる果汁そのものは凍っているわけではないため、「自然解凍」という語は誤解を招きました。より正確には「低温徐温(ゆっくり温度を上げる)」あるいは「徐温清澄」と呼ぶのが適切です。以下、工程を整理しながら表現を修正します。
果汁が凍らない理由と温度帯
- 圧搾時の果汁は約35°〜40°Brixという高糖度で、糖の氷点降下により−3〜−6 ℃程度まで凍りにくい状態にあります。果房の中に残る氷は水分だけが結晶化したもので、外に出てくる液相はほぼ連続して液体のまま流れます。
- したがってタンクに移し替えた時点で“解凍”する対象は果汁ではなく、混入している細かな氷片や凍った果粒です。これらが融け、温度が0 ℃付近まで上がれば比重差で澱が沈むので、その過程を便宜的に「徐温清澄」と呼びます。
実際のワイナリーでの手順(標準例)
- タンク受け入れ(−7 ℃→−2 ℃近辺)
ジャケットを使わず外気と自重による緩慢昇温をとる蔵もあれば、温水ジャケットで2〜3 ℃/時程度で管理する蔵もあります。
- 低温清澄(0〜4 ℃、24〜72 h)
温度をむやみに上げないのは、揮発性アロマの散逸と酸化を抑えるためです。
- 澱引き後に15〜18 ℃へプレウォーム
酵母接種前に必ず15 ℃以上にし、発酵を滑らかに立ち上げます。急加温せず、プレート式熱交換器で10 〜15 分ほどかける例が多いです。
- 18〜20 ℃で酵母接種、13〜17 ℃で維持発酵
Erbslöh社の技術資料もアイスワインの推奨発酵温度を18〜20 ℃に設定しています
まとめると、圧搾直後の果汁は高糖度ゆえ液体のまま流れ出ており、タンク内では「氷を溶かしつつ澱を沈めるための低温徐温」を行います。発酵操作に移る前に15 ℃以上へ引き上げる工程を「プレウォーム」と呼ぶのが現場の慣習で、「解凍」という語は厳密には当てはまりません。今後はこの語を用いず、「徐温」あるいは「低温清澄」と記述します。
カナダではアイスワイン用ブドウの収穫に機械収穫が広く行われているようですが、他のワイン産地はどうなのでしょう。
産地別・アイスワイン用ブドウの収穫スタイル
- カナダ(オンタリオ州ナイアガラなど)
- ドイツ
- 連邦レベルではアイスヴァインの機械収穫は禁止されていません。むしろ禁じられているのは Beerenauslese/TBA のみで、これらは従来どおり手摘み義務。
- 実際の運用は州ごとに差があり、バーデン=ヴュルテンベルクやラインラント=プファルツでは機械収穫が解禁。一方、ヘッセン(主にラインガウ)では今も手摘みが義務付けられています。
- ただしモーゼルやラインガウの急斜面畑では物理的に機械が入れず、伝統的な夜間の手摘みが主流です。
- オーストリア
- こちらは真逆で、ワイン法および各州 g.U. のプロダクトスペックに「Handlese(手摘み)義務」が明記されています。ウィーン、ニーダーエスターライヒ、ブルゲンラント、シュタイヤーマルクすべて同様。
- DACによっては機械収穫そのものを禁止するケースもあり、小規模区画と品質志向が背景です。
- 中国(吉林省集安・遼寧省桓仁ほか)
- 労働力コストが比較的低く、畑もテラスや山間部に点在するため手作業が一般的。国内の技術指針も「−8 ℃以下での人工采摘(手摘み)」を前提にしています。
- 一部国営大農園では試験的にハーベスターを導入中ですが、普及率はまだ低いというのが現状です。
- アメリカ(ワシントン州・ニューヨーク州など)
- 法的制限はなく、畑条件で選択可。ワシントン州レッドマウンテンの Kiona Vineyards では2014年に凍結果15トンを機械収穫した事例が報じられています。
- 逆にフィンガーレイクスなど東部の小規模ワイナリーは手摘みが中心。人工凍結の“ice-box wine”を造る場合は通常の機械収穫で後から凍結する方式も採られます。
- まとめ
- 規制が鍵: オーストリアのように法で手摘みを義務付ける国では機械化できない。
- 地形と規模: 平坦で大規模な畑(カナダ、ドイツの平地、米ワシントン)ほど機械化が進み、急斜面や小区画(モーゼル、オーストリア、吉林の山岳地)は手摘みが残る。
- 労働力とリスク管理: 気温条件を満たす短い夜間に一気に収穫する必要があるため、労働力確保が難しい地域では機械化が効率的。
こうした背景から、カナダが機械収穫先進国、ドイツは地域差あり、オーストリアは全面的に手摘み、中国と米国は畑や生産哲学に応じて混在という構図になっています。
オーストリア全体の法律では機械収穫は禁止されていないと思います。東欧などではどうなっているのでしょう。
オーストリア ― 機械収穫は原則可
- 国家レベルのワイン法(Weingesetz 2009)では、手摘み義務があるのはBeerenauslese/Ausbruch/Trockenbeerenausleseなどで、SpätleseとEisweinは対象外です。つまり法律上は機械収穫も可能です。
- ただし、産地団体(例:Vinea Wachau)や一部DAC仕様書では「Handlese」を任意で求める場合があります。平坦なブルゲンラント東部(Neusiedlersee周辺)では夜間にハーベスターを入れる蔵も増えていますが、急斜面や小区画は依然手摘みが主流です。
ドイツ ― 州ごとに差
- 連邦法はEisweinの機械収穫を禁じていません。
- バーデン=ヴュルテンベルク、ラインラント=プファルツなど平地主体の州は機械収穫可。
- ヘッセン(ラインガウ)は手摘み義務を残しています。
- とはいえモーゼルやナーエの急斜面では物理的に機械が入れず、実質的には手摘みが続いています。
チェコ(Česko) ― 手摘みを法律で明示
- ワイン法321/2004 Sb. §23(3)により、「ledové víno(氷結ワイン)」を含むd)〜g)の特級区分は手摘みでなければならないと規定。
- 南モラヴィアの大規模畑でも人手を確保できるよう、協同組合単位で夜間に数百人を動員する例が一般的です。
ハンガリー ― Jégborだけは手摘み
- 2022年の産地仕様書(例:Móri OEM)では「機械収穫可、ただし válogatott szüret(選果)・késői szüret(遅摘み)・töppedt szőlőből készült bor・そしてjégborは手摘み限定」と明記。
- トカイ高地でも同様に手摘みが慣行。平地のアルフォルド(Great Plain)では試験的にハーベスターが使われていますが、氷点管理の難しさから商業ベースには至っていません。
スロヴァキア ― 法律は黙示、慣行は手摘み
- ワイン法313/2009 Z.z. §19 で「ľadové víno」の糖度・温度条件は定めていますが、手摘み義務は条文中に書かれていません。
- 実際には山岳傾斜地が多く機械が入りにくいこと、そして品質イメージの観点からほぼ全蔵が従来どおり人海戦術を取っています。
スロヴェニア・ルーマニアなどその他東欧
- スロヴェニア:国家規格に収穫方法の強制条項はなく、生産者の自主基準。大手平地畑では機械収穫の試行例もありますが、氷点下での機械効率が悪く、多くは手摘み。
- ルーマニア:地理的表示(例:DOC Jidvei)の製品仕様書では「手摘み・機械摘み併用可」とするケースがあり、vin de gheață専用区画のみ手摘みを推奨する形が主流。
- ブルガリア・クロアチアなどはアイスワイン生産量がわずかで、各ワイナリーの判断に委ねられています(大半が手摘み)。
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- posted : 2025-06-26, update : 2025-11-22
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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