ワインエキスパートに教わるワイン入門
中国ワイン入門
中国ワインの全体像を教えてください。
以下では、中国ワイン(ぶどう酒)産業の全体像を、歴史的背景から法制度、主要産地・ぶどう品種の各視点で整理して解説します。
1. 生産・消費の現状
2. 中国ワインの歴史的経緯
3. 原産地呼称・地理的表示制度
- 中国では、以下の二本立ての仕組みが整備され、その後、実務上は「商標型GI」と「GI製品型」のダブルトラックで運用されてきました。
- 2001年商標法改正:地理的表示を「集団商標・証明商標」として登録・保護できるようにした。
- 2005年「地理标志产品保护办法」の公布:商標とは別に、品質監督部門による **GI 製品専用の保護制度(sui generis 型)」が導入された。
- 2024年2月施行の新規則では、以下の項目などが盛り込まれ、商標型GIとGI製品制度の調整・整理が進められています。
- GI の定義の統一
- 標準・技術規格の位置づけの明確化
- 使用者・検査機関の管理強化
- ヨーロッパのAOC/DOCGと比較すると、法制度は新しく、現在も整備途上ですが、国際協力による基準整合やダブルトラック運用が特徴です。
4. 主要産地と品種
- 寧夏(Ningxia):1982年に大手メーカーが進出し、黄河沿いの恵まれた乾燥気候と海抜1,100〜1,500mの高原テロワールが評価されるように。2014年までに3.9万ヘクタールのブドウ畑を擁し、国際品評会でも入賞が増加しています。
- 山東(Shandong):張裕(チャンユー)をはじめ多彩なシャトーが集中。煙台、蓬莱、日照など地域ごとの土壌差を活かし、主にカベルネ・ソーヴィニヨン系を栽培しています。
- その他:河北(Great Wallワインの基地)、新疆(ゴビ砂漠縁辺の条里式畑)、雲南(標高2,000m超の高地栽培)など、生育環境を活かした多様なテロワール研究が進行中です。
- 主なぶどう品種
- 国際品種: Cabernet Sauvignon、Merlot、Chardonnay、Sauvignon Blanc などが栽培面積の大半を占めます。
- Marselan:Cabernet Sauvignon × Grenache の交配品種。耐暑性と色素濃度の高さから、2016年時点で中国ではおおよそ133〜200haが植栽されていると報告されており、その後も増加傾向にあります。
- 在来種・耐寒種:Vitis amurensis(中国・ロシア極東原産のヤマブドウ。日本の山ぶどう V. coignetiae とは別種)やVitis davidiiなどがルーラルエリアで接ぎ木台木として利用され、SSR(Simple Sequence Repeat)マーカー解析による遺伝的多様性研究が進展しています。
中央アジア経由でブドウ栽培は始まったいうのはヴィニフェラが持ち込まれたのでしょうか?中国の各地で元々自生していたブドウからのワイン生産や栽培化は起こっていなかったのでしょうか?
中国におけるぶどう栽培の始まりには、大きく二つの側面があります。すなわち、
- 中央アジア経由で導入された Vitis vinifera(ヨーロッパぶどう種)
- 中国本土に自生する野生ぶどう種(主に Vitis amurensis など)
以下、これらを整理します。
1. Vitis vinifera の導入――中央アジア経由
これが「中央アジア経由でぶどう栽培が始まった」という記述の根拠であり、ここでいうぶどうは学術的には Vitis vinifera(あるいはその亜種・栽培品種)を指しています。
2. 中国固有種の存在と利用
3. SSR マーカー解析から見た両者の関係
結論
- 中央アジア経由=Vitis vinifera の導入
→ 約2300年前(戦国末〜前漢初期)までには、中央アジアとの交易路を通じて Vitis vinifera の苗木が持ち込まれ、ワイン醸造用ぶどう栽培の基礎となった。
- 中国固有種の野生ぶどう
→ 古代から果実利用はあったものの、本格的なぶどう酒醸造は限定的。20世紀以降、V. amurensis を原料とした近代的ワイン醸造・育種が本格化。
- 両者の雑種化
→ SSR マーカー解析が示すように、現代中国ワイン用ぶどうはヨーロッパ系品種と中国固有種の遺伝子を併せ持つものが多い。
以上をもって、「中央アジア経由=ヴィニフェラの持ち込み」「土着ぶどうの利用状況」の両面をご理解いただけるかと思います。
「ヴィニフェラの持ち込み」は同時にワイン文化の持ち込みでもあったのでしょうか。
中国における Vitis vinifera (ヨーロッパ系ぶどう種)の導入は、単に苗木や種子が持ち込まれただけでなく、同時に「ぶどう酒(葡萄酒)の醸造技術」やそれを嗜好する文化的背景も伴っていたと考えられています。ただし、その普及には時間がかかり、以下のような段階を経ています。
1. 漢代の「ワイン文化」の受容
- 張騫(Zhang Qian)の西域使節(紀元前138〜119年)
『史記』などの記録によれば、前漢の張騫が中央アジア(大夏=現ウズベキスタンのフェルガナ盆地)から帰還した際、ぶどう酒を生産する技術とともに種子(あるいは苗木)が持ち込まれたと伝えられます。
- 『神農本草経』(後漢末期)
late Han dynasty の薬物学書『神農本草経』には、ぶどうを「酒(飲)を造る」原料として利用できる旨が記載されており、当時すでにぶどう酒製法(酒法=jiu fa)が知られていたことを示唆します。
これらから、苗木の持ち込みと同時に「ぶどうを発酵させて飲む」という技術情報(酵母の利用や発酵方法)が伝播したとみなせます。
2. 唐代以降の文化的定着
- 唐の高昌征服(641年)
唐王朝がシルクロード西域の高昌(Turfan)を征服した際、現地で「馬乳葡萄(mare teat)」と呼ばれる細長いぶどう品種とともに、醸造技術(酒法)が「高昌の方法」として持ち帰られ、宮廷や貴族の間で珍重されました。
- 詩人たちの言及
唐詩には「西域の葡萄酒」を詠んだ篇が残り、ぶどう酒が都市文化・宮廷文化の一部として扱われていたことがうかがえます。
ただし、この時点でも主流の酒は黄酒(もろみ発酵による米酒)や清酒類であり、ぶどう酒は「西方の珍味」「外交贈答品」としての側面が強く、一般庶民への浸透は宋代以降とされます。
3. 中央アジア由来の「物質文化」と「非物質文化」のセット伝播
- 物質文化:ぶどうの種子・苗木、醸造用の器具(壺・アンフォラ相当)
- 非物質文化:発酵のノウハウ(酵母の管理、温度・容器管理)、飲用マナー(宴会での嗜み方)
シルクロードを介した交流研究によれば、これらは一体化して交易されることが多く、種子のみ単独で転じることはまれだったといいます。Amber Shine and Black Dragon Pearls: The History of Chinese Wine Culture - spp278_chinese_wine_culture_history.pdf
村落や軍事駐屯地での試験的な醸造が行われた記録もあり、技術自体は古代から断続的に流入していました。
中国において、Vitis amurensis 以外のブドウ属は、ワイン製造や品種改良にあまり利用されていないのですか。
中国には Vitis amurensis 以外にも数多くの野生ブドウ種(Vitis davidii, V. piasezkii, V. flexuosa, V. romanetii など)が存在しています。しかし、ワイン醸造や近代的な品種改良の場面で積極的に使われているのは V. amurensis が圧倒的に中心です。理由を整理します。
Vitis amurensis が重視される理由
- 耐寒性が非常に高い:マイナス40℃でも耐えるとされ、北東部(吉林省・黒竜江省など)でワイン生産が可能になる。
- 交雑研究の蓄積:20世紀初頭からロシアや中国で交配実験が盛んに行われてきた。すでに実用化された耐寒系交配品種も存在。
- 酒質が比較的良い:酸が高く、赤ワインの骨格形成に利用できる。
他の野生種の扱い
- Vitis davidii(蛇葡萄)
- 病害抵抗性が強いが、果実の酸が非常に強くワイン向きではない。
- 中国南部で地元消費用にワインが造られる事例はあるが、国際的には稀。
- Vitis piasezkii, V. romanetii, V. flexuosa など
- 学術的には研究対象(耐病性・形態学的多様性)があるが、醸造への応用は限定的。
- 遺伝資源として保存はされているが、育種利用は初期段階。
- 総合的傾向
- 多くの中国固有種は酸味・渋みが強く、果実サイズも小さいため、ワイン醸造向けには難がある。
- そのため主に「病害抵抗性・環境適応性の遺伝資源」として研究用に評価されるに留まる。
まとめ
- ワイン製造や実用的な品種改良で広く利用されているのはほぼ Vitis amurensis のみ。
- 他の野生種は、現状では「学術研究や将来の遺伝資源」としての価値に重点がおかれている。
- ただし、気候変動や病害対策の観点から、将来的に V. davidii などの南方系野生種も交配利用が広がる可能性はあります。
多くのワイン生産国では、ワイン生産地域区分を行っていますが、中国ではどのように生産地域を分けていますか。また、ワインマップのようなものはあるのでしょうか?
中国ワイン産地の区分は“多層構造”
フランスの AOC のような 単一・全国統一の法定区画 はまだ整備されていません。かわりに、行政目的・研究目的・業界プロモーション目的の 三つのレイヤー が併存しています。
| レイヤー |
主体 |
区分例 |
主な用途 |
| 業界レイヤー |
中国酒业协会(CADA)ほか |
「六大ワイン産区」
①渤海湾(山東・河北・天津)
②黄淮海(河南・安徽など黄河故道)
③黄土高原/長城沿線(山西・陝西)
④西北(寧夏・甘粛・新疆)
⑤東北(遼寧・吉林・黒竜江)
⑥西南高原(雲南) |
展示会パンフレット、マーケティング資料で最もよく使われる |
| 学術レイヤー |
農業農村部 「国家葡萄産業技術体系」 |
12 生態帯(I 東北冷涼帯〜XII 海南熱帯帯) |
気候・病害研究、品種適地試験の基礎 |
| 法制度レイヤー |
国家知識産権局(CNIPA)
地方政府 |
GI(地理標志)ワイン:煙台、昌黎、沙城、寧夏賀蘭山东麓、吐魯番…など |
ラベル表示・ブランド保護に法的効力 |
*「六大産区」は行政区ではなく、産業振興の便宜上まとめた“経済ブロック”という位置づけです。
代表的な区分をもう少し詳しく
(産区の区切りと名称は文献・行政資料で揺れがあります)
ワインマップは「民間が充実・公的は限定的」
Cellar.Asia の「中国葡萄酒产区地图」では主要産区・酒庄をクリックで閲覧可中国葡萄酒产区|中国葡萄酒产区地图与指南
中国では地域ごとのワイン生産量や品種ごとの栽培面積といった統計資料を公開していないのですか。
結論 ――「まったく公開していない」わけではないが、EU 諸国のような統一的・詳細な公的統計は存在しません。
中国では ①国の基幹統計、 ②業界団体・年鑑、 ③各省区のローカル白書、 ④民間コンサル・研究論文――という四つのレイヤーでデータが点在します。
1. 公的統計のカバー範囲と限界
中央政府が公開する無料データは「全国合計」か「省合計」の産量が中心で、品種別や畑面積の細分統計は制度上そもそも取っていないのが実情です。
2. 産区・地方政府による発信
- 寧夏回族自治区葡萄酒産業発展局
- 2024 年末時点で酿酒葡萄 60.2 万 亩・年間 1.4 億本と公表。宁夏:法治护航“紫色梦想” 小葡萄成就大产业
- 地元メディアでは「Cabernet Sauvignon 57 %、Merlot 17 %」など品種構成が報じられるが、公式統計表ではない。
- 疆・山東・河北なども年度工作報告や招商資料で面積・産量を発信するが、集計手法や区分(鮮食/酿酒)が統一されていない。
要点 地方レベルでは「数字そのもの」は公開されるものの、各省が独自フォーマットで発表するため、全国を横断比較できる統計体系にはなっていません。
3. 民間コンサル・研究論文による補完
4. なぜ詳細統計が整備されていないのか
- 産業分類上のギャップ
中国の統計コードでは「葡萄酒」は飲料製造業の一小区分で、農作物統計の「葡萄(鮮果)」と連動していない。
- データの商業価値と機密性
主要ワイナリーは国有大手・民営大手ともに品種構成や畑面積を経営機密として扱い、政府統計への提出は総量のみ。
- 行政目的の優先度
EU の GI 規制のように「品種別植栽許可」を直接コントロールする制度がないため、行政が品種面積を細かく把握する必要性が低い。
関連ページ
- posted : 2025-06-26, update : 2025-11-22
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
- ワイン酵母はどこから来るのか? « HOME » アイスワイン