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PIWI品種(真菌耐性ぶどう)とは
PIWI品種(真菌耐性ぶどう)の定義を教えてください。
PIWIはドイツ語 Pilzwiderstandsfähig(「真菌に耐性をもつ」の意)の頭字語で、「真菌耐性ぶどう品種」を指します。次のような項目が、国際的な生産者団体や研究機関でほぼ共通して採用される実務上の定義です。
- 主要病害への高い遺伝的抵抗性
醸造用ブドウで最も問題となる二大病害―うどんこ病(Echter Mehltau/Oidium)とべと病(Falscher Mehltau/Peronospora)―に対して、圃場試験で“はっきりとした耐性”を示すこと。完全免疫ではないものの、防除回数を大幅に減らせるレベルの抵抗性が条件とされています。PIWIs – pilzwiderstandsfähige Reben, Fungus-resistant grape varieties
- 育種の手法:在来種×野生種などによる交雑と戻し交配
欧州種 Vitis vinifera のワイン品質を保ちながら、北米・アジア系 Vitis 種が持つ抵抗性遺伝子(Rpv3、Ren3 など)を導入する常法育種(遺伝子組換えを伴わない)で創出されます。公開されている育種報告では、多くの現代 PIWI でゲノムの大部分(おおよそ 90 % 以上)が vinifera 由来と示されていますが、この割合はあくまで既存研究に基づく目安であり、すべての品種に共通する公式基準ではありません。
- 農薬(主に殺菌剤)の使用削減効果
伝統的品種が年間8〜12回以上の防除を要する地域でも、条件が整えば PIWI なら散布回数をおおむね半分以下(慣行品種比で 50〜80 % の削減)に抑えられるとされており、環境負荷・労力・コストの削減が定義の核心です。具体例として「8〜12回 → 2〜4回」程度まで減らせた試験も報告されていますが、実際の必要回数は年や地域・栽培方針によって変動します。PIWI Internationalは「殺菌剤使用量を顕著に減らせる耐性を持つブドウ品種」と明示しています。What are PIWI Wines?
- 公的リストや品種登録で「PIWI」と明記
ドイツ連邦品種庁やオーストリアワインマーケティング協会など各国の公的機関が、登録時に耐病性データを添えて“PIWI”区分を付記しています。これにより市場やワイナリーが「真菌耐性品種」として一目で識別できるようになっています。
まとめ
PIWI品種とは、うどんこ病・べと病に対して遺伝的に強く、殺菌剤散布を劇的に減らせるよう改良された交雑ブドウ品種を意味します。単なる「ハイブリッド」や「交雑種」ではなく、上記のように「耐病性が実証され、環境負荷低減に実効性があること」が定義の核心です。
PIWI品種と名乗るためには PIWI International での登録が必要ですか?PIWI という言葉が使われるようになる前に生まれていてもPIWI品種と名乗れますか。
1.「PIWI」という呼称そのもの
- 一般名詞としての位置づけ
「PIWI」は元来、ドイツ語 Pilzwiderstandsfähig(真菌耐性)の頭字語で、耐うどんこ病・ベト病などの交雑品種を指す汎用語として2000年に初めて文書化されました。
- 登録の義務はない
研究者や生産者が自家品種や既存品種を「PIWI品種」と説明するだけなら、PIWI Internationalへの届け出や審査は求められていません。各国の品種登録制度(ドイツ連邦品種庁、オーストリア品種リストなど)が主たる公式根拠になります。
2. PIWI Internationalが管理する商標・ロゴ
- 商標の成立
「PIWI」の語とロゴは2004年に商標出願され、2015年に登録が完了しています。
- 会員のみ使用可能
定款§14では「すべての PIWI 語・図形商標は会員だけが目的に沿って使用できる」と明記されており、登録商標としての「PIWIロゴ」を製品ラベルや販促物に表示するには、会員資格とロゴ使用規程の順守が必須です。
⇒したがって瓶や公式文書に公式ロゴを入れて販売したい場合は、PIWI Internationalへの加入(または国内PIWI協会経由の加入)が必要です。
⇒一方、「PIWI品種」「PIWI系統」といった表現を文章中で一般名詞として用いるだけであれば商標権の制限は受けず、論文や広報資料で「本品種はPIWI系統である」と説明するだけなら問題ありません。
3. 「PIWI」という言葉が生まれる前の品種はどう扱うか
- 歴史的ハイブリッドもPIWIと呼ばれている
- セイヴァル・ブラン(1919育成)―英国内では「最も多く植えられたPiWi」と紹介されています。
- レオン・ミロー(1911育成)―独Falstaff誌の品種データベースで「Type: PIWI」と分類。
- これらはPIWIという語が誕生する以前に育成されましたが、耐病性が基準を満たすため現在はPIWI品種として扱われています。
- 実務上の目安
- うどんこ病・ベト病に対し圃場試験で高い耐性を示すこと
- EU あるいは各国の公的品種リストに登録済みであること
- PIWI International のロゴを使う場合は会員になること
PIWI品種と呼ばれるための真菌耐性基準は?
PIWI(Pilzwiderstandsfähig=真菌抵抗性)と呼ばれるぶどうには「法律で決まった一発ルール」は存在しません。ただし欧州の育種機関・登記審査(ドイツ JKI/Bundessortenamt、スイス Agroscope、仏 INRAE‐ResDur など)と PIWI International の現場慣行を総合すると、次の3本柱が事実上の“合格ライン”になっています。
- OIV抵抗性スコア7以上
- OIV452-1(ダウニー・ミルデュー/downy mildew)・OIV455-1(パウダリー・ミルデュー/powdery mildew)の 1–3–5–7–9 の五段階で、7=high/9=very high を取れることが必須とされます。OIV 452-1, OIV 455-1
- スコアは薬剤を使わない圃場または葉円盤試験を最低3生育期追跡して確認。
- 実用レベルの防除削減
- 上記スコアを満たすと、慣行品種と比べて50〜80 %程度の殺菌剤散布削減が再現的に可能。PIWI International はこの環境効果を「PIWIの定義の核心」と明言している。
- 耐性遺伝子を複数スタック(推奨)
各国の運用例(抜粋)
- ドイツ(Bundessortenamt)
- 両病害でスコア7以上がないと「pilzwiderstandsfähig」として新品種登録を認めない。
- フランス(INRAE ResDur)
- Downy 8 + Powdery 6 を目標にピラミッディング。シャンパーニュ入りした Voltis が代表例。
- スイス/オーストリア
- 同様に7以上を目安。栽培指導では「3回以下散布で収穫可能か」を現場確認。
PIWI品種は雑種ですがドイツや VIVC ではヴィニフェラ扱いになっていることがあります。
なにか基準があるのでしょうか?
結論を先に
登録・分類が決まるプロセス
- 育種家の申請
- 系譜・耐病性データ・ワイン試作結果を提出し、品種登録を申請。
- 申請書には「Species=Vitis vinifera」と記載する場合が多い。
- Bundessortenamt の現地試験(3〜5年)
- 形質が既存ヴィニフェラ範囲に収まるか、交雑臭(ラブルスカ系メトキシピラジンなど)が無いかを確認。
- 問題が無ければ 「Ertragsrebsorte (Vitis vinifera L.)」として公式リスト入り。
- VIVC への反映
- VIVC は「原産国の公的登録」を一次情報源とするため、Regent, Solaris なども Species=Vitis vinifera subsp. sativa で掲載される。
- EU 規則との整合
- 2021年の規則改正までは、PDO ワインは「Vitis vinifera 由来品種のみ使用」という建付けでしたが、2019年の事例(Ambt Delden)では VIVC で Vitis vinifera と分類された PIWI がそのルールのもとで認められた先行例といえます。
実務上の“暗黙の基準”とされるポイント
- ゲノム構成
現代 PIWI の多くで vinifera 寄与率が概ね 90 % 以上と報告されていること(90〜97 % 程度というのは育種報告に基づく目安であり、品種横断の公式基準ではないことに注意)。
- 感覚品質
ラブルスカ由来の「フォクシー香」や色素ジグルコシドが検出されない。
- 栽培特性
樹勢・葉形・フェノロジーが在来品種レンジに収まり、台木への接ぎ木適合性がある。
- ワイン法適合性
醸造・分析指標(総酸、アルコール収率など)が既存ヴィニフェラと同等。
これらを総合し、“ヴィニフェラらしさが維持されている”と国が認めれば vinifera 扱い、そうでなければ「interspezifische Kreuzung(交雑)」として登録されます。
まとめ
- 数値で線引きする公的ルールは無い
判断は各国の品種登録審査に委ねられ、ドイツが vinifera と認めれば VIVC も追随します。
- 現場では「ほぼ vinifera、かつ耐病性遺伝子だけ導入」が目安
これが「PIWI なのに vinifera扱い」という現象の背景です。
Marselan という黒ブドウ品種はPIWI品種ではありませんが耐病性があるといわれています。OIV 452・455によるベト病・うどんこ病耐性評価スコアはどれくらいですか?
Marselan の耐病性と OIV スコア
Marselan は、1961年にフランスでカベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュを交配して生まれた品種です。PIWI(Pilzwiderstandsfähig = 真菌耐性品種)のような耐病性品種ではありませんが、育種目的としてカベルネ由来の葉の厚み・クチクラ特性とグルナッシュ由来の耐乾性 によって、比較的病害耐性が高いとされています。
一方で、OIV の記述形質コード(OIV 452:べと病/downy mildew、OIV 455:うどんこ病/powdery mildew)について、Marselan の正式な数値スコアが公的データベース上で明示されている例は現時点で確認できません。各種圃場試験や品種解説では、べと病・うどんこ病ともに「中程度(moderate)」程度の耐性とされており、標準的なヴィティス・ヴィニフェラと同等か、やや強い程度にとどまると理解されています。防除を完全にゼロにすると感染が進行する点で、PIWI 品種のような高レベルの遺伝的耐性とは明確に区別されます。
出典と根拠
- VIVC(International Vitis Database, DEU 3431 Marselan)
- OIV スコアは公式数値が登録されておらず、記述的に「やや高い耐性」とのみ。
- INRAE Montpellier の圃場データ
- Marselan の耐病性は「中程度」、ただし散布を完全に省略すると感染が進行。
- 文献例
- Bouquet A.(1961〜1990年代の育種報告):真菌耐性育種ではなく、品質重視交配。
- Reynolds & Heuvel (2021). Grapevine Breeding Programs for the Wine Industry:Marselan は耐病性ではなくワイン品質で高評価と記載。
- Le Cunff et al. 2008:SSRマーカー分析結果からも、PIWI的耐性遺伝子座は持たない。
補足
Marselan の耐病性は主に生理的・形態的要因(葉の厚み・蝋質)によるものであり、PIWI 品種のように特定の耐性遺伝子(例:Rpv, Ren 系統の座位)をスタックして得られたものではありません。そのため、OIV スコアで「高〜非常に高い」(6〜9)レベルの耐性を取る PIWI 品種とは区別しておくのが妥当です。
関連ページ
- posted : 2025-06-27, update : 2025-11-22
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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