ワインエキスパートに教わるワイン入門
アルザスワインにおけるデノミナシオンと品種名
AOC Alsace では、品種名そのものではなく「Dénomination」として品種が表示されています。これはなぜなのでしょうか。
なぜ「cépage」ではなく「dénomination」とされるのか
- 「cépage」はあくまで農学的な品種名
- cépage はブドウの学名・農学的呼称です。
- これ自体はワインラベルの表示権を直接与えるものではなく、EU 共通規則(2019/33)に従えば、IGP や Vin de France でも品種名を記載できます(85%以上ルールなど)。
- AOC Alsace の場合は「販売名=dénomination en usage」
- アルザスでは伝統的に「品種名で売る」マーケット慣習がありました。
- これを 法的に PDO 名称の一部として組み込んだのが「dénomination en usage(使用上の呼称)」です。
- たとえば「Alsace Riesling」「Alsace Pinot gris」は「単なる品種表示」ではなく、「Alsace AOC の認めた販売名」として登録されています。
- dénomination ごとに条件が付随する
- 「製品仕様書」では「Riesling」「Gewurztraminer」「Pinot gris」「Muscat」などを dénomination en usage として明記し、
それぞれの dénomination に対して収量上限や補糖可否などの規格が設定されています。
- Riesling → 収量上限 90 hL/ha
- Gewurztraminer → 80 hL/ha
- ここで重要なのは、規格が「品種(cépage)そのもの」に直結しているのではなく、AOC Alsace において dénomination en usage として表示される場合に適用されるという点です。
- 「dénomination」とする意義
- ラベルに「Riesling」と書いてあるとき、それは「ブドウの種類」ではなく「AOC Alsace の認める販売名」であることを示します。
- 消費者にとっては品種名と同じに見えますが、制度上は「AOC (AOP) Alsace の Riesling」という PDO 名称の一部です。
- これにより「品種表示ワイン」という市場慣習と、「PDO 名称としての規制」を両立させています。
「dénomination」を用いるのは、Muscat や Pinot(Klevner)のような総称を制度上合法にする目的が主で、その際に Gewurztraminer や Riesling といった品種名も同じ枠組みに包含された結果ではないでしょうか。
回答(事実/不明点/推論を分けて提示)
- 事実として確認できること(一次資料)
- AOC Alsace の「製品仕様書」では、
- Riesling, Gewurztraminer, Pinot gris, Muscat, Pinot/Klevner, Auxerrois, Sylvaner などが dénomination en usage として列挙されている。
- 各 dénomination en usage ごとに収量上限(rendement maximum autorisé) が設定されている。
- 分析値や表示要件(最低糖度・総アルコール度上限、補糖可否など)は、dénomination en usage 単位で規定されている。
- VT(Vendanges Tardives)・SGN(Sélections de Grains Nobles)は、必ず特定の dénomination en usage(Riesling, Gewurztraminer, Pinot gris, Muscat) を伴って表示するよう定められている。
- 公的資料で見つからなかったこと(=不明点)
- 「dénomination en usage を導入した立法趣旨/歴史的経緯」を直接説明する INAO の公式解説・議事録・省令の理由書等は、公開ソースでは見当たりませんでした(少なくとも、上掲の「製品仕様書」や BO-Agri 公報、INAO 技術資料の範囲では目的論が明文化されていません)。
- 推論(目的論。あくまで仮説)
- 以下は推論です(一次資料に明記がないため、規定の構造と実務からの帰納)。
- アルザスには 「単一品種名で売る慣習」と、「Muscat/Pinot(Klevner)のような総称」が並存してきた歴史がある。総称は 単一 cépage 表示の EU 一般ルール(品種名=原料情報)では扱いづらいため、“表示名=販売名”としての器を設け、総称も品種名も一列に並べて管理できるようにしたのが dénomination en usage ではないか。
- この器にすることで、(a)各名称に収量・分析基準などの“規格”を直接ひも付け、(b)VT/SGN など特別表示の際に「必ず特定の dénomination を伴う」という運用上の一貫性を確保できる。
- 結果として、Riesling や Gewurztraminer のような固有品種名も、総称(Muscat/Pinot)と同じ「dénomination en usage」へ包含され、ラベル上は「AOC Alsace の○○」という“PDO 名称の構成要素”として扱えるようになる。
まとめ(端的に)
- 事実:Alsace では 品種語や総称を “dénomination en usage” として制度内に位置付け、規格・表示要件をその単位でセットしている。
- 不明:その導入目的を明言した公的説明は現時点で確認できない。
- 推論:総称(Muscat/Pinot)を合法的に扱いつつ、品種名も含めて表示と規格を一体管理するため、dénomination en usage という器に統合した、と考えるのが制度設計上もっとも整合的。
「Edelzwicker」という用語は、本来 Pinot blanc や Sylvaner など高貴品種をブレンドワインに用いられ、Chasselas を主体とした「Zwicker」と区別されていました。それが現在では、なぜ単一品種でも「Edelzwicker」と名乗れるようになったのでしょうか。
- 歴史的背景
- 19世紀末から20世紀初頭、アルザスでは 「Zwicker」 という呼称が、主に Chasselas を主体とした日常消費用のブレンドワインを指していました。
- これに対して 「Edelzwicker(高貴な混醸)」 は、Pinot blanc・Sylvaner・Riesling などの“高貴品種”を主体としたブレンドを意味し、差別化のための商慣習上の用語でした。
- 法制度への取り込み
- 1970年代に AOC Alsace が制定された際、「Edelzwicker」は dénomination en usage(使用上の呼称) として法的に登録されました。
- しかし、AOC Alsace の「製品仕様書」では「Edelzwicker」の使用条件を ブレンド比率や品種構成で厳密に定義せず、「複数品種である必要はない」「単一品種でも表示可能」という非常に緩やかな規定が採用されました。
- 単一品種でも「Edelzwicker」と名乗れる理由
- INAO が「Edelzwicker」を“高貴品種のブレンド”という歴史的意味から切り離し、単に“ブレンドワイン(場合によっては単一品種も含む)”を指す dénomination en usage としたためです。
- 実際の「製品仕様書」では「Edelzwicker」は 収量上限・補糖規定などの生産条件は Alsace AOC に準じるが、品種構成に関する制約は設けられていないため、単一品種でも適法に使用できます。
- 今日の実務的ニュアンス
- その結果、「Edelzwicker」という名称は本来の意味(高貴品種ブレンド)を失い、単一品種を含めた“エントリーレベルの Alsace AOC ワイン”の一般的名称として流通しています。
- 一方で、生産者団体や文献の多くは、歴史的に「Edelzwicker」が“高貴品種ブレンド”を意味していたことを注記し続けています。
「高貴なぶどう品種から造られたワインをブレンドし、いずれの品種も突出せず支配的な個性を示さないもの」――これが本来の Edelzwicker の意味であり、単一品種ワインはむしろその対極に位置するように思われます。
本来「Edelzwicker」という言葉は、アルザスにおいて高貴品種とされたぶどうをいくつか組み合わせ、どの品種も突出せず調和を示すブレンドを指していました。ここでいう高貴品種には、今日一般的に挙げられる Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat だけでなく、当時は Pinot blanc や Sylvaner も含まれていました。実際には、戦後しばらくのアルザスでは Pinot blanc や Sylvaner が日常的なワインの主役であり、Edelzwicker の基盤を担っていました。一方で Riesling や Gewurztraminer などは品種名ワインとして販売されることが多かったのです。
したがって、Edelzwicker の伝統的な意味は「高貴品種のブレンド」であり、単一品種ワインはその考え方の対極にあります。しかし、AOC Alsace の規定においては「1種または複数の白ぶどう品種から造る」と定められたため、制度上は単一品種でも Edelzwicker と名乗れるようになりました。この点で、歴史的な意味と法的な制度上の定義との間には大きなずれが生じています。
なぜ、Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat の4品種だけが「高貴品種」として語られるようになったのですか。
- 1945年当初の「高貴品種」
- AO Vin d’Alsace が創設された1945年には、cépages nobles(高貴品種)として Riesling、Traminer(Gewurztraminer)、Pinot、Tokay、Clevner、Muscat、Sylvaner など幅広い品種が列挙されていました。
- その後の制度的変化
- Alsace Grand Cru(1975年)で使用できる品種が Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat の4品種に限定されました。
- Vendanges Tardives(VT)・Sélection de Grains Nobles(SGN)(1984年公式導入)でも、同じくこの4品種のみが対象となりました。
- これにより、「高貴品種」=4品種という枠組みが制度の中で定着しました。
- 品質イメージの確立
- Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat は、いずれも 長熟性・芳香性・高い糖度や酸度のバランスを備えた品種であり、アルザスの高品質ワインの象徴とされてきました。
- 対して Pinot blanc や Sylvaner は、日常消費向けのワインを主体に使われる傾向が強く、グラン・クリュや貴腐ワインと結び付く高級イメージからは外れていきました。
公的に Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat だけを「高貴品種」と定義されたことはありますか。
公的に Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat の4品種だけを「高貴品種」と定義した文書はありません。
「cépages nobles(高貴品種)」という表現が公式に条文に登場したのは、1945年の AO Vin d’Alsace の規定だけです。このときのリストには Pinot や Sylvaner も含まれていました。
その後の AOC Alsace の仕様書では「cépages nobles」という言葉自体が使われなくなり、かわりに品種ごとの列挙や dénomination en usage という仕組みで規定されるようになりました。
現在「高貴品種=Riesling、Gewurztraminer、Pinot gris、Muscat」という理解が広まっているのは、Alsace Grand Cru や Vendanges Tardives / Sélection de Grains Nobles の制度で使用できる品種がこの4種に限定されたことから生じた慣習であり、法令として明確に定義されたものではありません。
Auxerrois はアルザスでは Pinot blanc より広く栽培され重要な品種ですが、多くは「Pinot blanc」の名で販売されるため、表に出ることは稀です。アルザスにおける Auxerrois の立ち位置を、歴史的な観点も含めて詳しく教えてください。
制度上の位置づけ
AOC Alsace の規定では、ラベル表示に使える販売名(dénomination en usage)として 「Pinot blanc」 と 「Pinot(または Klevner)」 が定義されています。
- 「Pinot blanc」には Pinot blanc B と Auxerrois B の両方が含まれると明記されており、Auxerrois 100% でも「Pinot blanc」として販売可能です。
- また「Pinot/Klevner」と表示する場合には、Auxerrois, Pinot blanc, Pinot gris, そして白仕込みの Pinot noir を含めることができます。
そのため、消費者が目にする「Alsace Pinot Blanc」というワインの多くは、実際には Auxerrois 主体(場合によっては 100% Auxerrois) であることが少なくありません。
栽培面での実態
- 栽培面積:公的統計では Pinot blanc と Auxerrois をしばしば合算して扱いますが、現場の実態としては Auxerrois の栽培面積が Pinot blanc の倍以上に達しており、Pinot blanc を大きく上回るとされています。
- 役割:Auxerrois は酸が比較的穏やかで果実味とボディを与えるため、日常的なスティルワインのベースとしても、クレマン向けのブレンドとしても重宝されています。
- Crémant d'Alsace:産地全体の生産量の約 1/4 を占めるクレマンにおいて、Auxerrois は主要品種として大きな存在感を持っています。
歴史的背景
- Pinot blanc の導入:Pinot blanc は Pinot noir の白色変異で、ブルゴーニュで古くから知られ、18〜19世紀にはアルザスに伝わっていました。
- Auxerrois の導入:Auxerrois(Pinot Auxerrois)は Pinot と Heunisch Weiss(Gouais blanc)の自然交配種で、原産地はブルゴーニュ〜ロレーヌ周辺と推定されます。16〜17世紀にはロレーヌやモーゼルで存在が記録され、アルザスでは19世紀に栽培報告に現れます。
→ 導入経路はロレーヌ方面経由と考えられ、アルザスには Pinot blanc よりやや遅れて広まりました。
- 戦後以降の展開:AOC 制度下で「Pinot blanc」という表示枠に Auxerrois を含める規定が整備され、さらに 1976 年に創設された Crémant d’Alsace の需要拡大によって栽培が大きく伸びました。
→ その結果、「表ラベルには Pinot blanc、実態は Auxerrois 主体」という現在の状況が確立しました。
現在の立ち位置
- 表ラベルに出にくいが、産地の基盤を支える品種:Auxerrois は AOC の制度設計と市場慣行により、「Pinot Blanc」という名で表に出ることが多く、固有の名で語られることは少ない品種です
- 重要性:一方で、静止ワインとクレマンの両方に不可欠な基盤品種であり、実際には Pinot blanc より広く栽培されています。
- 歴史的経緯:Pinot blanc より遅れて導入されましたが、AOC 制度とクレマン需要の拡大によって Auxerrois が主役的な役割を担うようになったのが現状です。
関連ページ
- posted : 2025-09-04, update : 2025-11-27
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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