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PDOワインでも「ヴィニフェラ×他種の交配品種」が認められた経緯
PDOワインでも「ヴィニフェラ×他種の交配品種」が認められた経緯を調べてください。
経緯を時系列で整理
- 19世紀末〜1950年代
- フィロキセラ禍後、ヨーロッパでは耐虫性を持つアメリカ系ブドウとの交雑種(いわゆるハイブリッド)が広く植えられたが、メタノール含有量が高いと疑われたり、風味が粗い・品質が不安定と評価されたことなどから、多くの国が段階的に禁止。ワイン原料として公式に認められるのは Vitis vinifera のみ、という原則が定着した。
- 1987年 EU が「原産地指定地域で生産された品質ワイン(QWPSR)=純ヴィニフェラ」を明文化
- 規則 823/87 は「原産地指定地域で生産された品質ワイン (今日の PDO の前身) に使用できるブドウは Vitis vinifera だけ」と規定し、交雑品種を排除しました。
- 1999年 生産潜在力規則で“交雑品種”自体は EU レベルで合法化
- 改正 CMO 規則 1493/1999 の植栽条項(旧 Art.19)は、各国が栽培用に分類できる品種を「ヴィニフェラ種またはヴィニフェラ×他種の交雑品種」と定義。ただし、PDO(当時は QWPSR) 用には依然“純ヴィニフェラ”の縛りが残りました。
- 2008年 PDO/PGI 制の導入
- 旧「QWPSR」などを PDO、「テーブルワイン+地理的表示」などを PGI に整理する枠組みが導入された。
- PGI: ヴィニフェラまたはヴィニフェラ×他種の交雑品種を許容
- ただし当時の定義では、PDO / PGI ともに「Vitis vinifera に属するブドウ品種」から造られることが前提で、交配品種は GI 付きワインにはまだ使えなかった(交配品種自体は、別条文に基づき栽培品種リストに含めることは可能)。
- 2013 年―規則 1308/2013 でも同構造を継承
- 加盟国による“抜け道”―ドイツの PIWI 品種
- 同じ 1308/2013 の第81条は、加盟国が作成する「栽培ブドウ品種リスト」に交配品種を登録できると規定。
- ドイツはこれを利用し、Solaris や Cabernet Blanc など一部の PIWI を栽培品種リスト上で「Vitis vinifera に属する」と位置付けました。この結果、法技術的には2021年の改正前から PDO(g.U.) にこれらの品種を用いる余地が生まれていました。
- すなわち、EU レベルでは“純ヴィニフェラ”と定義しつつも、加盟国レベルの品種分類の運用によって、PIWI を g.U. に組み込む道が部分的に開かれていたことになります。
- 2018〜2021年 気候変動・グリーンディールを背景とする見直し
- 2021年12月―規則 2021/2117 で PDO 条項を改正
- 2022年以降の実装状況
- 各国・各 PDO が個別仕様書を改訂し交配品種を追加する必要があり、実際の採用は段階的。
- EU 会計検査院 2023 年報告は「ハイブリッド採用は気候変動適応策として重要」と評価した。
- ただし Noah・Othello などメタノール問題が歴史的に指摘された6品種の禁止(Article 81(2)(b))は存続している。
現在の実務的ハードル
- 品種リストへの格付け
- 交配品種は各加盟国が Article 81 に基づく「栽培品種リスト」に追加しなければ商業栽培できない。
- PDO 仕様書改訂プロセス
- 生産者団体→加盟国→欧州委員会の三段階審査が必要で、改訂には 1〜2 年を要する。
- 市場と消費者認知
- ラベル上の品種表示ルールは従来どおりだが、PDO に交配品種が含まれる場合でも従来型のテロワール・イメージをどう維持するかが議論されている。
フランスの AOC でも雑種が補助的に認められるようになりましたが、EU の法改正と連動していたのですか?
フランスAOCで雑種(PIWIなど)が補助的に認められるようになった仕組み
EU 本則の改正とフランス国内制度の二段重ね
- フランス国内の受け皿:VIFA 制度(2018〜)
- INAO は2018年に VIFA(Variétés d’Intérêt à Fin d’Adaptation) を創設。
- 各AOCが最大10品種(色別)を 実験目的で 取り込み可
- 1生産者当たり植栽面積5%・ブレンド10%上限
- もともと「気候変動適応の実証枠」として設けられた制度ですが、2021/2117 の改正で PDO に交配品種が明示的に認められたことにより、VIFA で試験中の品種を将来 AOC の正式品種として位置付ける道筋が、EU 法との整合性のうえでもはっきりしました。
- EU 規則2021/2117による転換
- 2021年12月公布の Reg.(EU) 2021/2117 は共通市場機構(OCM)条項を改正し、PDO に使用できるブドウは Vitis vinifera または vinifera×他種 の交配品種であると明示しました(Art. 93(1)(a)(v))。これにより「PDO=純ヴィニフェラ」という従来の前提が正式に解除され、加盟国が AOC/PDO の仕様書の中で交配品種を正面から位置付けることが可能になりました。
- 先行事例:シャンパーニュでの Voltis 採用(2022)
- シャンパーニュ、コトー・シャンプノワ各AOCは 2022 年の「製品仕様書」改訂で Voltis(PIWI)を「VIFA 枠」で追加。
- 面積上限5%、ブレンド上限10%、10年間の試験扱い。
- INAO 議決時の資料には「2023年から適用される欧州規則に先駆けて」と明記され、改正EU法との連動がはっきり示されています。
- 2023年時点でシャンパーニュ全体の Voltis 植栽面積はおよそ 5 ha と報告され、その後2024年には約 6〜7 ha、2025 年の初収穫時点でも 10 ha 未満にとどまっています。ブラインド試験では 5〜10%程度をブレンドした試作キュヴェが好意的に評価されたと報告されており、今後の本格導入に向けたデータ収集中です。
- 他AOCの動き
結論
- EU規則2021/2117が「PDO=純ヴィニフェラ」という30年以上続いた前提を解除。
- フランスは既存の VIFA 制度をそのまま「改正EU法の実装ハブ」として活用し、まずシャンパーニュを皮切りに AOC で雑種の実験的導入を開始。
- したがってフランスAOCで雑種が補助的に認められたのは、EU法改正と密接に連動しています。今後、各AOCが仕様書を書き換えれば本採用も可能ですが、導入ペースは AOC ごとの判断次第です。現時点の申請状況からは、2030年前後に“PIWI入りAOCワイン”が本格的に市場に現れ始める可能性がありますが、これはあくまで現行計画に基づく予測です。
現状ではフランスの VIFA 制度で適応目的品種(cépage à fin d'adaptation)として認可されているのは耐暑性のある品種が多くなっていますが、これからPIWI品種が増えていくのでしょうか?
いまの VIFA に PIWI が少ない理由
- 制度の成立経緯
- 2018 年に INAO が創設した VIFA(Variétés d’Intérêt à Fin d’Adaptation)は、「気候変動に対する“適応”を目的とした試験枠」で、最初の焦点は早熟化・乾燥・高温への耐性でした。そのためシリア、トゥリガ・ナシオナル、アルヴァリーニョなど地中海・大西洋沿岸のヴィニフェラ系品種が多数選ばれ、PIWI は少数派となりました
- EU 法がようやく後押し
- 2021 年の規則 2021/2117 改正で Vinifera×他種 交配が PDO に正式解禁され、PIWI を「実験」ではなく AOC 品種として明記できる道が開きました。これが VIFA にも直接波及しています。
- 面積・比率制限
- VIFA は「1生産者 5 %、アッサンブラージュ 10 %、10年間試験」という強い枠を伴うため、リスクの少ない耐暑性ヴィニフェラが先に選ばれやすかったという事情があります。
既に動き始めた PIWI 採用
これから PIWI は増えるのか
- 政策圧力が強い
- EU Green Deal と Farm to Fork は 2030 年までに農薬使用 50 %削減を掲げ、フランス国家計画 Écophyto 2030 も同一目標を採用。病害耐性を持つ PIWI はその唯一の近道として高評価を受けています。
- 技術的裏付けが整い始めた
- CTPS(国立作物技術委員会)は 2023-24 年に Artaban, Vidoc, Selenor など 12 品種を恒久リストへ格上げ。恒久リスト入りは VIFA 以外の導入ルートを広げる鍵になります。
- ODG の申請ラッシュ
- ボルドー、ロワール、ジュラなど15を超える ODG が 2024〜25年にかけて VIFA 追加を申請中と報告されています。公表資料ベースでは候補品種の中で PIWI が大きな比率を占めているものの、具体的な構成比や2027年以降の割合については現時点では確定的な数字を示しにくいため、「VIFA 承認品種の過半が PIWI になる」といった表現は将来のデータに応じて見直す余地があります。
- 課題はテロワールとイメージ
- 味わいの差異や買い手の受容、苗木確保がボトルネック。ただし Voltis 5 %混醸シャンパーニュの官能試験で好評価が得られたことで「品質面の不安」は急速に後退しています。
まとめ
- 当初は耐暑ヴィニフェラが中心だった VIFA だが、EU 法改正と農薬削減目標に背中を押されて PIWI の候補・試験面積は着実に増加している。
- 2025〜27年ごろが一つの転換期になる可能性が高く、恒久リスト入りや ODG 申請の結果しだいでは、VIFA 登録品種の中で PIWI が大きな比率を占めるシナリオも十分想定される。
- 市場定着の鍵 は消費者への説明と苗木供給体制であり、官能評価や実需の蓄積次第では、PIWI を前面に出した AOC ワインが 2030 年代初頭に目に見えるボリュームで流通し始める可能性があります。
グリーンディールとは
グリーンディールと「Farm to Fork」戦略の位置付け
欧州グリーンディールは2050年までの気候中立達成を目指す包括的政策パッケージで、その農業分野の柱が「Farm to Fork(F2F)戦略」です。F2F は食品チェーン全体の環境負荷低減を掲げ、農薬使用量や化学肥料の抑制、温室効果ガス排出削減を具体目標にしています。
ワイン用ブドウ栽培においても、これらの目標は「耐病性品種の導入による農薬散布回数削減」「気候変動適応力の高い品種開発」などの技術的ソリューションを促しており、ひいてはブドウ品種多様化への政策的後押しにつながっています。
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- posted : 2025-06-28, update : 2025-11-23
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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