ワインエキスパートに教わるワイン入門
ぶどうは甘い
野生のヴィニフェラは甘いのですか。
野生のヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera subsp. sylvestris)の果実は、現代のワイン用・食用ぶどうの基準から見ると、一般に「甘い」とは言えません。以下、科学的および栽培化の視点から整理してお答えします。
野生ヴィニフェラの果実の甘さ
- 果粒は小さく、種が大きい(果肉が少ない)
- 可溶性糖濃度(Brix値)は、多くの報告でおおよそ13〜16°Brix程度にとどまることが多い
- 栽培品種(Vitis vinifera subsp. vinifera)では、収穫時に18〜25°Brix程度が一般的
- 酸味や収斂味(タンニン)が強く、苦味や青臭さも含まれる
- 糖の蓄積は遅く、熟度が均一でない
- 場合によっては動物(鳥や哺乳類)によって選抜されるようなある程度の糖度には達することもあるが、「ワイン用ぶどうのような甘さ」はない
学術的根拠と文献
- This et al. (2006)
- 野生種は果粒が小さく、糖度が低く、苦味があるため、ヒトによる選抜が始まる以前の段階では食用や醸造には不向きだったと記述されています。
出典: This, P., Lacombe, T., & Thomas, M. R. (2006). Historical origins and genetic diversity of wine grapes. Trends in Genetics.
- Ramos-Madrigal et al. (2019)(古代DNA研究)
- 野生種と初期栽培種の間で、糖分関連遺伝子(例:SWEET遺伝子群)の発現に差が見られ、これは栽培下での糖蓄積能力の向上と関連する可能性が示唆されています。
- OIV文献・形態分類
- sylvestris 系統は雌雄異株であることが多く、雌株のみに果実が実る。しかも果実は酸味が強く、糖蓄積も不安定。
甘さの進化的意義と栽培化との関係
- 野生状態のブドウにおける「甘さ」は、種子散布を担う動物を惹きつけるための進化的適応ですが、糖度は限定的。
- 栽培化の過程でヒトは、より甘く、果粒が大きく、種が小さく、酸味や収斂味が弱い個体を選抜。
- SSRやSNPマーカー研究では、糖分蓄積やフレーバーに関わる遺伝子の多型が、野生種と栽培種で明瞭に異なることが報告されています。
補足:甘い野生ブドウは存在するか?
- 局地的に比較的糖度の高い野生個体も報告されています(例:ジョージアやトルコ東部の一部個体群)
- しかしそれらも商業的な果実品質やワイン醸造に耐えうるレベルではなく、選抜・交配を経てはじめて栽培種に近づいたと考えられます。
鳥はぶどうの甘さに引き寄せられて実を食べるのですよね。
また、人類もかつては野生のぶどうを食用として採取し、醸造にも利用していたと思います。
鳥は「甘い」からブドウを食べるのか?
鳥類(と一部哺乳類)は果実中の糖を検知し、それを摂食の指標として利用します。ただし、鳥が「好む糖度」と、ヒトが「おいしいと感じる糖度」には差があります。
- 鳥類は10–12°Brix程度でも十分に「甘い」と感じて摂食行動を示します。
- 実際、ヨーロッパクロウタドリ(Turdus merula)やヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis)などは、糖度15以下の果実でも積極的に食べ、種子を散布します。
- 糖濃度が高くなると粘度が増し、ネクターを主に利用する鳥では摂食速度が低下することが報告されていますが、「25°Brix以上が一律に不利」というほど単純な話ではありません。
人類は野生ブドウを食べ、醸造もしていたのか?
- 考古学的証拠
- トランスコーカサス地域(現ジョージアやアルメニア)では、紀元前6000〜5000年頃の土器に酒石酸の痕跡が発見されており、野生ブドウを用いた醸造の可能性が高い(McGovern et al. 1996, 2003)
- 野生ブドウ(sylvestris)が原料と考えられる
- 遺伝学的証拠
- Ramos-Madrigal et al. (2019) や Zhou et al. (2019) による古代DNA研究で、初期のワインづくりには栽培品種と明確に分化する前の半野生的な系統が用いられていたことが確認されている。
矛盾の整理:「野生のブドウは甘くない」の真意
これはあくまでヒトが現在「甘い」と感じる基準(ワイン用ぶどう基準)に照らしての話であり、以下のように整理できます:
| 文脈 |
甘いか? |
補足 |
| 鳥類の食性において |
はい |
糖度10–15°Brixでも十分 |
| ヒトの初期利用において |
はい |
特に糖の少ない時代には相対的に貴重な甘味源 |
| 現代のワイン用・食用の基準において |
いいえ |
現代の選抜品種(>20 Brix)に比べるとかなり低い |
| 醸造原料としての利用性 |
条件付き |
糖濃度が低くアルコール発酵に不利。酸度が高く保存性は良いが発酵完了には補助が必要だった可能性 |
まとめ
- 野生の Vitis vinifera subsp. sylvestris は、鳥や初期人類にとっては「十分に甘い」果実であり、種子散布や初期利用の対象となった。
- しかしそれは、現代のワイン用品種のような高糖度・低酸度・果肉豊富という意味での「甘さ」ではない。
- 初期の人類は、自然に糖度の高まった個体(完熟果)を選び、食用・醸造用として利用し、やがて栽培化・選抜へと至った。
紀元前6000〜5000年頃のコーカサスでは栽培化が始まっていたのでは?
はい、そのとおりです。紀元前6000〜5000年頃の南コーカサス(現在のジョージアやアルメニアの一部)では、すでにブドウの「栽培化(domestication/cultivation)」が始まっていたと考えられています。
ただし重要なのは、完全に栽培品種化された Vitis vinifera subsp. vinifera が成立していたかという点ではなく、この時期はおそらく「栽培化の初期段階」であり、野生型(sylvestris)と栽培型(vinifera)の間の「移行型」個体群が存在していたとみなすべき段階です。
コーカサスにおける栽培化のタイムライン
| 時期 |
主な出来事 |
証拠 |
| 紀元前8000年以降 |
野生ブドウの採取・果実利用 |
石器・動植物遺骸・花粉 |
| 紀元前6000〜5000年 |
栽培化の開始段階(初期定住民による選抜・播種) |
土器内の酒石酸・花粉分布・DNA断片 |
| 紀元前4000年頃 |
本格的なブドウ栽培・ワイン醸造文化の定着 |
発酵用クヴェヴリ、剪定具などの農具 |
| 紀元前3000年以降 |
明確な栽培型遺伝子型(vinifera)の広がり |
古代DNA解析 |
「栽培化の開始段階」とは何を意味するか?
- 野生型の持ち帰り・播種 → 半栽培化
- 森や川沿いからブドウを採取してきて、居住地近くに播種
- まだ交配は自然任せ(開放受粉)
- 人工選抜(果粒が大きい個体の温存など)が徐々に始まる
- 形質変化の始まり
- 野生ぶどう(Vitis vinifera subsp. sylvestris)で一般的な雌雄異株(雄株・雌株が分かれる)に対し、栽培化の過程で両性花(hermaphrodite flower)をもつ個体が現れ、自家受粉・自家結実が可能な形質が広がっていく。
- 糖度・果粒サイズ・種子サイズなどの遺伝的差異が徐々に現れる
- DNA的には「中間段階」
- Zhou et al. (2019) や Ramos-Madrigal et al. (2019) のゲノム研究では、紀元前6000〜4000年の個体群は「野生型とも栽培型とも言い切れない中間形質」を持つとされる
醸造との関係
- 酒石酸(tartaric acid)の検出は、ワイン発酵の証拠としてよく使われます(例:McGovern et al. 1996)。
- ただしこの時点で使われたブドウは「すでに何らかの栽培的介入を受けていた可能性」があり、純粋な野生型の果実ではなかったかもしれません。
https://www.sci.news/genetics/grapevine-origin-domestication-11764.html では「約1.1万年前にほぼ同時にブドウが栽培化」とされていますが
ご紹介のリンク先(sci.news 経由)によれば、約1.1万年前(11,000年前)に、西アジア(レバント)とコーカサスの2箇所でほぼ同時に栽培化が起こったとしています。これは、2023年に Science 誌で発表された Dong et al. による大規模ゲノム解析の結果に基づいており、3,525点の野生・栽培ブドウのDNAを比較して得られた知見です。
考古学 vs. ゲノム解析:“いつから”のズレ
- 従来の考古学的証拠
- 6000〜5000 BC(約8,000–7,000年前):南コーカサス(例えばジョージアやアルメニア)において、土器やワイナリー遺跡からブドウの利用が確認されています 。
- つまり、現時点で形として「完全な栽培」(剪定具・播種・ヴィニフェラ栽培に適した器具)を示す考古学証拠はこの頃からと言えます。
- ゲノムによる「遡及的タイミング」
- ゲノム解析は過去の「遺伝的分化時期」(分岐・遺伝子選抜)をモデリングし、栽培化の始まりを11,000年前と推定しています。
- おそらく、この時期にはすでに野生型から遺伝的に異なる「人為的選抜圧を受けた初期栽培型」が現れ始めていた。
両者の整合的理解
| 観点 |
ゲノム解析(Dong et al.) |
考古学的遺物・遺跡 |
| 応答対象 |
遺伝的分化・選抜の始まり |
物質文化(器具・遺構・ワイン残渣) |
| 推定年代 |
約11,000年前(前9,000 BC) |
約8,000–7,000年前(前6,000–5,000 BC) |
| 状態評価 |
初期栽培化段階(形質変化あり) |
完全に意図的な栽培・醸造文化確立 |
- 遺伝的変化は“目に見える形”より先に始まり得るため、ゲノム解析と考古学証拠のズレは「開始時期」と「普通に栽培できる文化の確立時期」の差異と捉えられます。
- すなわち、“約1.1万年前から遺伝的に栽培圧が働き始め”、約8,000年前に文化的・遺物的に明確な栽培・醸造活動が定着したという理解になります。
まとめ
- ゲノム解析は「人が特定の形質を選んだ分岐・選抜が始まった時期」を遡って示すものであり、これは約11,000年前です。
- 考古学は「道具やワイナリーといった文化的証拠」に基づく実用開始の確かな時期を示しており、これは約8,000年前以降。
- 結果として、「栽培が遺伝的に始まったのは1.1万年前」「それが形として立証される文化(道具や施設)として定着したのが8,000年前以降」という段階的な理解が有力です。
コーカサスではワイン醸造用に、また西アジアでは主に食用を目的としてぶどうの栽培化が始まったとされていますが、なぜこのような違いが生まれたのでしょう。
自生地による野生ぶどうの違いは影響したのでしょうか?
ご指摘の通り、Dong et al. (2023) をはじめとする近年のゲノム・考古学研究では、コーカサス地域ではワイン醸造を目的とした栽培化が、一方で西アジア(レバント〜メソポタミア)では主に果実の食用を目的とした栽培化が進んだとされています。
これは非常に重要な論点で、以下のように整理できます:
結論概要
この地域差の背景には、主に以下の3つの要因が絡んでいます:
- 野生ブドウの地域的遺伝的多様性の違い
- 気候・テロワールの違いが熟度や酸度に与える影響
- 人間の文化的志向・用途・技術との相互作用
1. 自生ブドウの遺伝的・形態的違い
- コーカサスの野生ブドウ
- 比較的酸が高く、糖の蓄積が良好な個体群も存在(高緯度・冷涼な山岳地帯のため糖酸バランスが良好になりやすい)
- Dong et al. はこの系統を「Caucasus1」と定義し、糖度やフレーバーに関わる遺伝子(例:SWEET、MYB関連)が比較的早期に選抜されたことを確認
- 西アジアの野生ブドウ(レバント〜イラン)
- より乾燥・温暖な気候下で、果皮が厚く、果肉がややゼリー状で、乾燥に適した系統が選ばれやすい。一方で、気候条件によっては糖度が非常に高くなる場合もある
- 一方で、乾燥に強い、果皮の剥離性が良いなど、食用向け形質(食感・房付きの良さなど)が現れやすい
よって、自生地ごとに「利用しやすい特徴」が異なっていた可能性が高い
2. 気候と栽培目的の適合性
| 地域 |
気候特性 |
ブドウ利用の適性 |
| コーカサス |
冷涼湿潤・標高差が大きい |
酸が高く、糖の蓄積もしやすい→醸造適性 |
| 西アジア |
高温乾燥・降水量が少ない |
果実の乾燥(レーズン)や生食向き |
- 醸造用には糖度が高く、酸も残ること(発酵・保存・風味面)が重要
- 一方、食用では種子が小さい、果皮が薄い、脱粒しやすいなどが好まれる
気候と果実の熟成特性が、用途ごとの選抜圧を分けた可能性が高い
3. 文化的・技術的要因の違い
- コーカサス地域(ジョージアなど)では、陶器(クヴェヴリ)の発達と共に、発酵・貯蔵の技術が早期から発展
- 酒石酸の残留や陶器内の果皮の痕跡が証拠(McGovern et al. 1996)
- 一方、西アジアではレーズン、果実、生ジュース、シロップ(ディブスなど)としての利用が先行した形跡
同じブドウでも、文化的志向によって選抜対象が異なった
ヴィニフェラの栽培化過程で果実が現在ほどの甘さになったのはいつ頃なのでしょう。
この問いは、ブドウの栽培化(domestication)研究の中でも特に核心に近いテーマです。
「いつからヴィニフェラの果実が現在のように高糖度(18–25°Brix)になったのか」という点については、考古学・ゲノム・代謝化学の観点から複合的に考える必要があります。
結論概要
- 栽培化初期(約1万年前)には、糖度は野生種と大きくは変わらず、おおよそ10〜15°Brix程度にとどまっていたと推定されています(直接測定値ではなく、モデルに基づく推定)。
- 紀元前5000〜3000年ごろ(南コーカサス〜メソポタミア〜エジプト)には、すでに高糖型の品種分化が進み始めていた
- 糖度20°Brix前後のブドウが一般化したのは、おそらく紀元前2000年以降、乾燥気候・品種選抜・栽培技術がそろった地域(エジプト・レヴァント・東アナトリア)
- 高糖度は 複数の選抜イベントの積み重ねによって強化され、現在のような糖濃度を持つ品種の成立は、概ね紀元前1000年〜ローマ時代以降
年代別の進化的推移(推定)
※以下の糖度レンジは、現代のデータとモデルに基づく仮説的な推定であり、直接測定値ではありません。
| 時期 |
地域 |
ブドウの糖度(推定) |
根拠・特徴 |
| 約11000年前(前9000 BC) |
南コーカサス・レバント |
レバント おおよそ10〜15°Brix程度 |
Dong et al. 2023:野生に近い遺伝子型にも栽培圧がかかり始めたと推定 |
| 紀元前5000〜4000年 |
ジョージア・イラン高原 |
おおよそ12〜16°Brix程度 |
McGovernら:酒石酸の痕跡+遺伝子変異の蓄積開始 |
| 紀元前3000〜2000年 |
エジプト・レヴァント |
おおよそ14〜18°Brix程度 |
乾燥地で高糖選抜が加速(果実保存・醸造目的) |
| 紀元前1000〜ローマ時代 |
全地中海域 |
おおよそ18〜22°Brix程度 |
選抜品種の拡散。気候・技術・接ぎ木の活用 |
遺伝的観点からの糖度上昇要因
対象遺伝子群(例)とその機能
| 遺伝子群 |
機能 |
選抜による効果 |
| VvSWEET10, 12 |
糖トランスポーター |
果実中への糖蓄積増大 |
| VvINV(Invertase) |
ショ糖分解酵素 |
果実細胞内のグルコース濃度上昇 |
| VvHT(Hexose Transporters) |
六炭糖輸送 |
果皮・果肉間の糖分配制御 |
| MYB10/60系統 |
フェノール代謝と連携 |
アントシアニン・糖の協調蓄積調整 |
Dong et al. (2023)、Zhou et al. (2019)、Vondras et al. (2021) などのゲノム解析では、糖代謝やストレス応答に関わる遺伝子群に、野生型と栽培型で発現量や変異パターンの違いが見られることが示されています。これらのうち一部の遺伝子については別途の機能解析で果実の糖蓄積への関与が示唆されていますが、「どの遺伝子がいつ、どの程度、糖度向上に寄与したか」はまだ仮説段階です。
考古学的補強:高糖度化の物証
- エジプト第18王朝(前1500年ごろ)の墳墓に描かれたブドウ果房は、大粒・整った円錐房で、糖度の高い品種である可能性が高い
- デーツやイチジクと並ぶ「干し果実用途」があったことから、乾燥に耐える高糖ブドウ(>20°Brix)は存在していた
- クヴェヴリやアンフォラに残る酒石酸量も、高糖発酵に由来する沈殿と一致
気候と農法の影響
- 地中海性気候下では、灌漑制限・乾燥・剪定技術の導入によって果粒サイズが制御され、濃縮効果が生まれやすかった
- 早期から乾燥ブドウ(レーズン)文化があったため、生理的に高糖度でなければ干しブドウにはならない(逆に野生型では困難)
温暖化によってぶどうの糖度が過剰に高くなることへの対策として、(甘くない)野生種との交配も行われているのでしょうか。
はい、地球温暖化によって過剰に高まる糖度・アルコール度数への対応策として、「糖度が上がりすぎない」野生種との交配育種も一部で行われています。
ただしその主目的は、糖度抑制単独というよりは、耐暑性・酸保持力・成分希釈力の導入を通じて、間接的にアルコール度数を抑えることです。
以下、技術的背景・実例・課題を整理してご説明します。
背景:温暖化がブドウにもたらす影響
温暖化によりブドウ果実の成熟が加速し、以下の現象が発生しています:
| 項目 |
影響 |
| 糖度 |
上昇(25〜30°Brix以上になることも) |
| 酸 |
分解が早まり、ワインの酸が不足 |
| フェノール成熟 |
糖度より遅れる(バランス崩壊) |
| アルコール |
発酵後に14〜16% volに達することも |
対策としての「野生種交配」
- 高糖蓄積能力を弱める(抑制する)遺伝的背景の導入
- 高温下でも酸度を保持できる能力の獲得
- 果粒肥大や果房密度による糖度の希釈効果
使用される野生種の例
| 種 |
用途 |
特徴 |
| V. riparia |
酸度保持・早熟性 |
果実が小さく酸が高く、一般に糖酸比が低い。ヨーロッパ系との交配に頻用。 |
| V. amurensis |
耐寒・酸保持・ストレス耐性 |
糖はあまり上がらないが果皮が薄く、冬季の極低温への耐性が高い。一部の系統では乾燥や高温など複数のストレスへの耐性源としても評価されている。 |
| V. berlandieri(台木として) |
間接的な影響 |
地上部への影響として果実成熟遅延やバランス変化を与えることも。 |
これらの種は、ワイン用交配品種(セレクション)で間接的に「糖度の暴走を抑える」効果を持つ可能性がある。
実際の交配例・育種プログラム
- INRAE(旧INRA)フランス
- Calardis Blanc, Regent などに代表される新交配品種群(PIWI)では、病害耐性を主目的としつつ、一部の品種で収穫時糖度が極端に高くなり過ぎないことや酸の維持も選抜指標の1つとなっている。
- スペイン・CSIC
- 地中海沿岸で高温耐性ブドウの交配育種が進む。
V. riparia × Tempranillo の交配で「アルコール13%未満、酸高め」の品種を目指す試験あり。
- イタリア・VCR社やFondazione Edmund Mach
- 気候変動への適応品種(例:Fleurtai、Soreliなど)については、一部の試験で成熟がやや遅く酸が保持される結果が報告されており、その結果として過度な糖蓄積が起きにくいケースもある。ただし、酸度や糖度は産地や年次による変動も大きい。
制限・課題
- 野生種の導入によって香味構成が変化する(特に香りの低下やタンニンの質)。
- 法的に使える品種に制限がある(原産地呼称制度との両立が難しい)。
- 糖蓄積を抑えるだけでなく、果皮の構造や酵母発酵挙動にも影響を与える可能性がある。
補足:直接的な「糖蓄積遺伝子」への注目
近年では、糖代謝に関わる遺伝子(SWEETトランスポーター、Invertase群など)をターゲットにした分子育種も進みつつあり、「高温でも糖度が上がりすぎない」栽培型の実現が模索されています(参考:Vondras et al., 2021)。
まとめ
- 高糖度化・高アルコール化への対策として、糖度の上がりにくい野生種(主に V. riparia, amurensis)との交配が一定の役割を果たしている
- 直接的に「甘くないブドウを作る」よりも、「酸の保持」「熟期の遅延」「果粒の大きさ」などを介して糖の蓄積を間接的に抑える育種が主流
- 香味・法制度・栽培面でのバランス取りが今後の課題
野生のヴィニフェラは使われないのですか。
ご質問の「野生のヴィニフェラ(=Vitis vinifera subsp. sylvestris)」が気候変動下での交配・育種に使われていないのかという問いは非常に重要で、以下に結論から申し上げます。
結論:野生のヴィニフェラ(sylvestris)も一部で使われているが、限定的
- 主流の育種素材ではありませんが、糖度抑制・酸度保持・フェノロジー(成熟時期)調整などの目的で研究・交配に使われている例が存在します。
- ただし、sylvestris は同じ種内(vinifera)であるため、病害耐性や環境耐性などの“劇的な形質転換”には向きにくく、あくまで補助的素材として用いられることが多いです。
具体的に使われる理由と特性
| 目的 |
sylvestris の特徴と活用可能性 |
| 糖度抑制 |
一部系統で糖蓄積が遅く、果粒が小さいため、果汁濃度が高まりにくい |
| 酸の保持 |
熟期が遅く、酸の分解が進みにくい系統も存在 |
| フェノロジーの調整 |
晩熟化傾向の個体を交配に使うことで、暑い年でも成熟期をずらせる |
| 遺伝的多様性の確保 |
遺伝的なボトルネックを回避し、vinifera 品種群への新たな遺伝子導入元として |
使用事例と研究プロジェクト
- ドイツ:Geilweilerhof(Julius Kühn-Institut)
- sylvestris の在来集団(モーゼル渓谷やライン流域)を収集・保存し、交配親としての可能性(遅熟性、耐寒性、酸の保持)を調査
- 例:V. vinifera cv. Riesling × sylvestris の交雑で酸度・香気の変化を分析する実験系
- フランス:INRAE の保存系統
- 南仏で自生していた sylvestris を使い、干ばつ耐性や成熟期調整の可能性を評価
- sylvestris に含まれるMYB系統の変異が、アントシアニンの発現調整に影響する可能性も研究中
- 東欧諸国(クロアチア・ジョージア)
- 独自の自生 sylvestris 集団を育種素材として試験利用。在来系統の維持と気候順応性の評価が主目的。
利点と限界
- 利点
- 同種(vinifera)であるため、醸造適性のある形質が導入しやすく、香味に大きな違和感が出にくい
- 原産地呼称制度上でも“伝統的品種に基づく選抜”として受容されやすい
- 限界
- 北米種に由来するような強い病害抵抗性(うどんこ病・べと病など)は期待しにくいものの、一部の sylvestris 集団ではこれらの病害に対する部分的な耐性が報告されており、QTL 解析も進められている
- 一部では香気が弱く、野生由来の収斂味・酸味が残りやすい
- 自家不和合性や雌雄異株であることが多く、育種効率が悪い
結語
野生のヴィニフェラ(sylvestris)は、温暖化対応や遺伝的多様性の確保を目的として一部で交配素材として使われていますが、育種の中心ではありません。
むしろ、vinifera 品種群内の在来系統(古代品種)や他種との交雑種(PIWI品種)との比較の中で、補助的かつ戦略的に活用される位置づけです。
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- posted : 2025-07-09, update : 2026-01-02
- Author : katabami (Editor) / ChatGPT (Writing Assistant)
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