ワインエキスパートに教わるワイン入門

ブラインド・テイスティングで品種はわかるのか? 限界と「分からない」と言う基準

ワインのラベルを見ずに、香りや味わいだけで、使われているぶどう品種が分かるものなのですか。

条件が整えば(クラシックな品種・典型的なスタイル・よく訓練されたテイスター)、香りと味わいだけで、そのワインのぶどう品種を偶然よりは明らかに高い確率で推定することは可能です。たとえば先ほど触れたオックスフォード大学のデータでは、クラシック品種中心の訓練条件下で、グループの最頻回答による品種の正答率が約44%まで向上しています。

しかし、

などの要因により、常に正解できるわけではなく、100%の当てものにはならないというのも事実です。

現実的には、

という条件のもとで、“かなり当てられるが、やはり外すこともある” くらいのイメージが妥当だと思います。

なぜ「ある程度は当てられる」と言えるのか

訓練によって品種推定の精度が上がるというデータがある
オックスフォード大学のブラインドテイスティング・ソサエティの訓練データを分析した研究では、訓練の結果、品種の当たり率が有意に向上し、グループとしての「最頻回答」が実際に正しいことが多い(品種については正答率約44%で、単純なベースラインの約16%より有意に高い)と報告されています。
これは、少なくとも 「よく訓練された人たちは、品種をある程度高い確率で言い当てられる」ことの定量的な裏付けになります。
「クラシック品種の典型的特徴」をまとめた教育資料の存在
Court of Master Sommeliers などの団体は、ブラインドテイスティング試験を想定して、代表的な国際品種の「マーカー」(香り・味・構造の特徴)一覧(Classic Grape Markers や Grape Variety Profiles など)を公開しています。
こうした資料は、
ソーヴィニヨン・ブランなら「高い酸+柑橘+青いハーブの香り」
リースリングなら「とても高い酸+柑橘・青リンゴ+(場合によっては)ペトロール香」
など、「品種ごとのおおまかなプロファイル」を標準化しており、テイスターはこれに自分の記憶を重ねていきます。
プロのブラインドテイスティングは「論理的な推論」になっている
ブラインドテイスティングの訓練では
外観(色合い・濃さ)
香りの種類(果実、花、ハーブ、スパイス、樽香など)
味わいの構造(甘辛度、酸、アルコール、タンニン、ボディ、余韻)
を系統的に観察し、それをもとに気候・スタイル・品種を段階的に絞り込む方法が使われます。
つまり「勘」や「超能力」ではなく、データに基づく推論として成り立っている、というのが現在の専門教育の立場です。

単一品種ワインで「当てやすい」典型例

単一品種で、かつ典型的なスタイルの場合、以下のような品種は比較的当てやすいとされています。

こうした「教科書的スタイル」の単一品種ワインは、訓練済みテイスターにとっては“当たりやすい問題” になります。

単一品種でも難しくなる理由

ブレンドを完全に無視して「かならず単一品種」と仮定しても、品種当てが難しくなる要因はまだ多く残ります。

産地・気候・熟度によるスタイルの振れ
  • 同じシャルドネでも、冷涼産地のシャブリ的スタイル(高い酸+レモン・青リンゴ、樽控えめ)と温暖産地の樽リッチなスタイル(熟したトロピカルフルーツ+バニラ・バター)では、香りも味もかなり違って感じられます。
  • 熟度が高くなると、ソーヴィニヨン・ブランでもトロピカル寄りになり、一部のシャルドネやヴィオニエと紛れやすくなることがあります。
醸造スタイルの影響
  • 新樽を強く使うと、バニラ・トースト・ココナッツなどの樽香が前面に出て、品種差が見えづらくなります。
  • マロラクティック発酵(MLF)やバトナージュなどでバター・クリーム的なニュアンスが強くなると、シャルドネと一部のヴィオニエやマルサンヌなどが感覚的に近づいたりします。
感覚的に似ている品種同士の存在
単一品種でも、「この2〜3品種のどれかまでは絞れるが、最後の一つで迷う」というケースは多いです。
品種内部の多様性(クローンやローカル系統の違い)
  • 例:ピノ・ノワールサンジョヴェーゼなどはクローン差が大きく、アロマやタンニンの表現がかなり変わることがあり、感覚的には「別品種」と言いたくなるくらい差が出る場合もあります。
テイスター側の経験の偏り
  • フランスやイタリアのクラシック品種には強いが、ギリシャやポルトガルの土着品種には弱い、というように、経験の厚みが品種ごとに違います。
そのため、「よく飲んでいる品種は当てやすく、ほとんど飲んだことのない品種は当てにくい」という偏りが必ず入ります。

まとめ:単一品種ワインで「どこまでわかるのか」

前提を整理すると
  • そのワインが必ず単一品種であると仮定し
  • かつクラシックな代表品種・典型的なスタイルに限定し
  • テイスターが十分な訓練と経験を積んでいる場合
には、香りと味わいだけで「この品種だろう」という仮説を立て、実際にかなりの確率で正解することが可能と言えます。
ただし、現実のブラインドテイスティングで起きていること
データを見ると、オックスフォード大学ブラインドテイスティング・ソサエティの2018年の訓練データ解析では、訓練されたグループでも「グループとしての最頻回答」による品種の正答率は約44%にとどまり(単純なベースラインの約16%よりは有意に高いものの)、5割を明確に超える水準を期待するのは難しい、というのが実情です。
したがって
「香りと味だけで、単一品種ワインの品種が分かるのですか?」という問いに対しては、
「はい、“かなりの確率で推定する”ことは可能です。
ただし、それはあくまで“仮説としての推定”であって、
常に正解できるレベルではありません。」
という答えが、現実にいちばん近いと思います。

「ぶどう品種が分かるのか」という質問なのに、どうして回答が「当てられるか」という前提になっているのでしょうか。

「分かる」とは何を意味するのか

もともとの問いは、「ラベルを見ないで、香りや味わいだけで、ぶどう品種は分かるのか。」でした。

ここで問題になるのは、「分かる」という言葉が

という幅のある言葉だという点です。

ブドウジュースとオレンジジュースの例
たとえば、
  • 透明なコップに入ったブドウジュース
  • 透明なコップに入ったオレンジジュース
を差し出されて、目隠しして飲んだとします。
香りと味をひと口確かめれば、普通は
  • 「これはブドウジュースだ」
  • 「これはオレンジジュースだ」
とほぼ迷いなく分かるはずです。このとき、私たちは
  • 難しい推論をしているというより、
  • 感覚経験と記憶がほとんど自動でマッチして、
「ブドウジュースである」「オレンジジュースである」と、ほぼ100%の確信を持てます。
このような場合に日常語では「飲めば分かる」と言います。この「分かる」は、後で説明する「蓋然性」が非常に高い(ほぼ確実)状態です。

「蓋然性」という言葉の意味

ここで出てきた蓋然性(がいぜんせい)という言葉を、少し整理します。

さきほどのジュースの例だと:

これに対してワインの場合は、

のように、候補が複数あり得るし、
「90%そうだと思う」「60%くらいかな」など、蓋然性の度合いが揺れるのが普通です。

ここから先の話では、
「分かる」=蓋然性が十分に高く、
実務的に「この品種だと言ってよい」と判断できる状態
という意味で使うことにします。

※これは、この話題を整理するための便宜的な定義であって、辞書上の厳密な定義ではありません。

「分かる」「推定する」「当てる」の整理

議論を分かりやすくするために、ここでは次のように使い分けます。

個々のぶどう品種ごとに「特有の成分」や「特有の構成比」がなければ品種を特定できないと思いますが、ワインの成分は品種ごとに違うのでしょうか。

ワインの成分は品種ごとに違うのか

論理の前提確認
もし2つのワインが、含まれる成分の種類も濃度も、完全に同一であれば、それは物理化学的には「同じ液体」です。
その場合、機器分析でも人間の感覚(香り・味)でも2つを区別することはできません。
したがって、
「品種ごとに成分・構成比の違いがなければ、品種の違いが“分かる”ことは原理的にあり得ない」
という問題提起自体は、まったく正しいと思います。
短い結論
それを踏まえて、あえて短くまとめると「成分は品種ごとに違いがある」と考えてよいです。
ただしそれは、「この成分が入っていれば必ずこの品種」という単純な“専用成分”が1個ずつ割り付けられているという意味ではなく、多数の成分の濃度パターン(構成比の組み合わせ)が品種ごとに統計的に異なっているというイメージに近いです。
さらに重要なのは、その成分パターンは品種だけで決まるわけではなく、テロワール・栽培・醸造の影響も強く受けるという点です。
つまり、
「品種だけが成分を決めている」わけではないが、「品種が変われば、成分の構成パターンも変わりやすい」
という理解になります。

何がどう違うのか:一次代謝産物と二次代謝産物

成分をざっくり二つに分けて考えると分かりやすいです。

一次代謝産物(糖・酸など)
ブドウ果汁の糖(ブドウ糖・果糖)や有機酸(酒石酸・リンゴ酸など)は、多くの Vitis vinifera 品種で同じ種類の成分が含まれます。
ただし、
  • 酒石酸/リンゴ酸の比率
  • pH
  • 一部の窒素源(アミノ酸)の分布
などについては、品種ごとに典型的な範囲や傾向があるとする研究もあります。
とはいえ、ここは栽培条件(熟度・日照・収量など)の影響も大きく、「どの一次代謝産物が、どの程度まで品種に固有と言えるか」については、まだ仮説段階の整理と見ておいた方が安全です。
二次代謝産物(香り・色・渋みをつくる成分)
一方、香りや色・渋みに関わる 二次代謝産物 は、品種差がよりはっきり出やすい領域です。
ここには、例えば次のような成分群があります。
  • モノテルペン類(linalool, geraniol, nerol など)
  • ノリスイソプレノイド(β-damascenone など)
  • メトキシピラジン類(IBMP など)
  • 揮発性チオール(3MH, 3MHA, 4MMP など)
  • セスキテルペン(rotundone など)
  • アントシアニンやタンニンなどのポリフェノール類
これらは「品種アロマ(varietal aroma)」の主役として、多くの研究で扱われています。

代表的な例:具体的な「品種×成分」の対応関係

完全な一覧ではなく、「こういう形で差が見える」という代表例だけを挙げます。

モノテルペンとマスカット系品種
マスカット系品種や一部のアロマティック品種は、linalool, geraniol, nerol などのモノテルペン類を高濃度に蓄積し、これがいわゆる「マスカット香(grapey, floral)」の主な要因とされています。
これらのモノテルペンはリースリングやゲヴュルツトラミネールなど他の香り高い品種にも存在しますが、マスカット系では総量が特に多く、構成比も特徴的であることが示されています。
メトキシピラジンと「青さ」(ソーヴィニヨン・ブラン/カベルネ系)
ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランなどでは、IBMP(3-isobutyl-2-methoxypyrazine)などのメトキシピラジン類が比較的高濃度で検出されます。
これらは、青ピーマン、草、ハーブ様の「青い」香りの主要因であることが多数の研究で示されています。
他の品種にも微量にあり得ますが、これらの品種では嗅覚閾値を超えるレベルまで蓄積しやすいため、「この品種らしい青さ」として知覚されやすい、という理解です。
揮発性チオールとソーヴィニヨン・ブラン
ソーヴィニヨン・ブランでは、3MH(3-mercaptohexanol)、3MHA(3-mercaptohexyl acetate)、4MMP(4-mercapto-4-methylpentan-2-one)といった揮発性チオール(varietal thiols)が、グレープフルーツ、パッションフルーツ、時に「猫のおしっこ」と表現されるようなアロマの主因であることが、レビュー論文で整理されています。
これらのチオールも他品種にゼロではありませんが、ソーヴィニヨン・ブランでは比較的高頻度で閾値を超える濃度が観測され、「ソーヴィニヨン・ブランらしさ」に強く寄与している、と考えられています。
ロトゥンドンとシラー(ペッパー香)
シラー(Shiraz)などの一部の赤ワインで感じられる黒胡椒様香 は、rotundone というセスキテルペンが主要因であることが報告されています。
rotundone は極めて閾値が低く、十数 ng/L 程度で明瞭な胡椒香を与えるため、ごく微量でも感覚的インパクトが大きいことが知られています。

これらの例から分かるのは、

「この化合物があるから“だけ”で品種が決まる」というより、
「ある化合物群が、その品種では高濃度かつ高頻度で閾値を超えやすい」
→ その結果として「品種らしさ」として立ち上がっている

という構図です。

「構成比パターン」としての違い:メタボロミクスの視点

近年、LC-MS や FT-ICR-MS を用いたメタボロミクスでは、

ワインを品種・産地・ヴィンテージなどで分類する試みが数多く行われています。

代表的な結果としては、

ここで重要なのは:

したがって、

「メタボロミクスで品種判別ができた」
= 「生物学的に、品種固有の絶対的“指紋”が完全に確立した」

とまでは言えず、

「少なくとも、そのデータセットの範囲内では、
成分パターンが品種ごとに再現性をもって異なっていた」

と読むのが妥当だと思います。

品種以外の要因と、「仮説段階」の部分

ここまでの話を、少し冷静に整理すると:

また、機器分析で見える「多次元の代謝プロファイル」と、人間が感じる「ソーヴィニヨン・ブランらしさ」「マスカットらしさ」のような感覚的プロトタイプ が、どのように対応しているのかについては、

「多数の成分の構成比パターンが、知覚される“品種らしさ”を支えているはずだ」

という仮説は自然ですが、
個々の品種について精密に検証され尽くしているとは言えないのが現状だと思います。
この部分は明確に「仮説段階」として扱うのが適切です。

メタボロミクスについて分かりやすく教えてください。

メタボロミクスをなるべくやさしく説明すると

ざっくり一言でいうと
メタボロミクス=「体や食品の中にある、たくさんの小さな成分を一気に調べて、パターンを見るやり方」です。
  • DNA を全部見る → ゲノミクス
  • タンパク質を全部見る → プロテオミクス
  • 小さな分子(糖・酸・香り成分など)を全部見る → メタボロミクス
という位置づけです。
ジュースのたとえで
ブドウジュースとオレンジジュースがあるとします。
普通の分析
  • 「糖分は何 g/L?」「酸は何 g/L?」
    → 調べるのは数項目だけ。
メタボロミクス的な考え方
  • 糖、酸、アミノ酸、香り成分など、
    測れる成分を何百種類もいっぺんに測る。
  • その結果、
    ブドウジュースは「こういう成分パターン」
    オレンジジュースは「こういう成分パターン」
    と、“指紋”のような違いが見えてくる。
この「ものすごくたくさんの成分を一気に測って、その“指紋パターン”を比較する」というのがメタボロミクスのコアです。
ワインに当てはめると
ワインの世界でメタボロミクスを使うと、たとえばこんなことができます。
品種や産地ごとの“指紋”を見る
  • カベルネ・ソーヴィニヨンのワインをたくさん測る
  • メルロのワインもたくさん測る
→ それぞれの「成分のパターン」がどう違うかを見る。
ここでいう「パターン」は、
  • どの成分が多いか・少ないか
  • どの組み合わせが特徴的か
という“全体像”です。
個々の成分だけでなく、「構成比の組み合わせ」がポイントになります。
テロワールやヴィンテージの違いを見る
同じ品種・同じ造り手でも、
  • 冷涼な年と暑い年
  • 異なる畑の区画
で、成分パターンがどう変わるかを見る。
醸造や熟成の影響を見る
発酵途中でサンプルを取りながら、
  • 酵母が糖を食べてどういう成分を作っているか
  • 樽熟成でどんな成分が増えたり減ったりするか
を「数成分」ではなく “まとめて” 見る。
「普通の分析」と何が違うのか
従来の分析:
  • 「酒石酸は何 g/L?」「リンゴ酸は何 g/L?」など、決まった成分だけをピンポイントで測る。
メタボロミクス:
  • 「測れるやつは できるだけ全部 測ってしまおう」
そのうえで、
  • 統計解析
  • パターン認識
を使って、品種・産地・造りの違いを“成分パターン”として見る。
イメージとしては、
  • 従来分析: 成分の「個別のテスト」
  • メタボロミクス:成分の「健康診断+人間ドック、さらに統計で傾向を見る」
くらいの違いです。
メタボロミクスの“おいしいところ”と限界
良いところ
全体像が見える
品種・テロワール・醸造など、いろいろな要因が最終的にどう効いているかを、「結果のパターン」として眺められる。
新しい発見のタネになる
  • 「この品種のワインだけ、この成分群がいつも多い」
  • じゃあ、これが“品種らしさ”に関係しているのでは?
といった仮説が立てやすい。
限界
「何でも見える」わけではない
→ 測定法ごとに“見える成分”が違うので、窓は部分的です。
統計モデルが複雑になりやすく、
→ 気をつけないと「きれいに分かれたように見えるけれど、実はたまたま」 という 過学習 も起きやすい。
なので、「品種らしさ・テロワールを理解するための強力なヒント」にはなるが、「これだけで全部説明できる」とまでは言えない、くらいに見るのが現実的です。
「品種らしさ」とメタボロミクス
「本当に成分や構成比に違いがあるなら、香りや味から品種を分かる余地があるはず」という話とつなげると、メタボロミクスは、まさに「成分・構成比の違いは本当にあるのか?」を確かめるための道具です。
そして現時点では、
  • 「特定の成分群のパターンが、品種ごと・産地ごとに違っていそうだ」→ これはかなり確からしい
  • 「人間が感じる『品種らしさ』と、そのパターンがどう対応しているか」→ ここはまだ研究途中で、仮説段階
というくらいの位置づけになっています。

ブラインド・テイスティングで品種を当てられるのは、テイスターが持っている「品種らしさ」の記憶に当てはまったときだと思います。
複数品種をブレンドして造られたワインにも「品種らしさ」は存在するのでしょうか。

人の感覚から見た「品種らしさ」とブレンド

単一品種ワインにおける「品種らしさ」
ブラインド・テイスティングで品種を言い当てるとき、テイスターはだいたい次のような心の働きをしていると考えられます(これは心理学的モデルに基づく仮説段階の説明です):
頭の中に、「ソーヴィニヨン・ブランとはこういうワインだ」「カベルネ・ソーヴィニヨンとはこういうワインだ」という「典型像(プロトタイプ)」がある。
典型像には、
  • 香りの要素(柑橘・青さ・スパイスなど)
  • 味わい(酸の高さ、タンニンの強さ、アルコール感)
  • 全体のバランス
がセットになって記憶されている。
一つひとつのボトルはこの典型像から多少ずれていますが、テイスターは「このワインは、自分の知っているソーヴィニヨン・ブラン像の“許容範囲”に収まっているか」を無意識に判定して、「らしい/らしくない」を判断している。
つまり「品種らしさ」とは、プロトタイプ(典型像)+その周辺の“許容範囲”として記憶されているカテゴリーと考えると整理しやすいと思います(ここまで全体、仮説段階)。
ブレンドワインの「品種らしさ」:典型的な3パターン
現実のブレンドワインは連続的なスペクトラムにありますが、説明しやすくするために、あえて典型的な3つのパターンに分けて整理してみます。
※以下の (A)(B)(C) は連続体の中の「典型ケース」を抜き出したものであり、すべてのワインがきれいにこの3つに分類されるという意味ではありません(ここも仮説段階)。
(A) 一つの品種が感覚的に明らかに優勢なブレンド
例:
  • カベルネ・ソーヴィニヨン主体(80〜90%)のボルドー・ブレンド
  • グルナッシュ主体のローヌ・ブレンド
香りや味わいの多くを、カベルネ/グルナッシュが「引っ張っている」ようなケースです。
この場合、テイスターは
  • 「カシス+ピーマン+しっかりしたタンニン」 → カベルネ的プロトタイプにかなり近い
  • 「アルコール高め+赤い果実+白胡椒/スパイス」 → グルナッシュ的プロトタイプに寄っている
と感じるので、ブレンドであっても、支配的な品種の「品種らしさ」が前面に出ていると受け取ることが多いはずです。
(B) 複数品種の特徴がバランス良く混ざっているブレンド
例:
  • カベルネとメルロがほぼ 50:50 に近く、それぞれがよく熟しているボルドーワイン
  • シラーとグルナッシュがどちらもよく主張している南ローヌ
この場合、
  • カベルネらしさ(黒系果実+青さ+タンニン)
  • メルロらしさ(プラム+やわらかいタンニン)
が同時に部分的には感じられるものの、どちらか一方の「品種カテゴリー」にすっきり収まりきらないことが多くなります。
テイスターは、結果として「ボルドー・ブレンドらしさ」「ローヌ・ブレンドらしさ」といった「スタイル/産地としての“らしさ”」で捉える傾向が強くなると考えられます(ここも経験則に基づく仮説です)。
(C) 品種らしさをあえて和らげる/均すブレンド
大量生産のテーブルワインや、特定市場向けの「飲みやすさ重視」スタイルでは、
  • 個々の品種のクセを弱めて、
  • 柔らかく、バランスの取りやすい味わいを狙う
というブレンド設計もあります。
この場合はむしろ、「どの品種にもあまり強いクセが出ていない」方向を目指しているため、テイスターの感覚としても、はっきりした「品種らしさ」は立ち上がりにくいと考えられます。
感覚レベルの小まとめ
感覚の側だけをまとめると:
  • ブレンドの中でも、一つの品種が感覚的に支配的な場合 → その品種の「品種らしさ」は十分に感じられる。
  • 複数品種がバランスよく効いている場合 → 個々の品種らしさより、「ブレンド・スタイル/産地のらしさ」が前面に出やすい。
  • 「品種らしさをできるだけ均す」ことを狙ったブレンドでは、テイスターがはっきりした「品種らしさ」を感じにくくなる。
したがって、ブレンドワインにも「品種らしさ」は存在し得るが、それがどの程度前面に出るかは、ブレンド比率とスタイル設計、テイスターの経験・記憶に強く依存する(仮説段階)という答えになると思います。

メタボロミクスの視点から見たブレンドと「品種らしさ」

ここからは、ワインを「成分パターン」として見たときにどう考えられるか、という話です。

※以下、「高次元空間のベクトル」「クラスター」という説明は、メタボロミクスでよく用いられる概念モデル(仮説段階)であり、個々のワインについて厳密に実証された図ではありません。

単一品種ワインは「品種ごとの成分クラスター」を作るか
メタボロミクスでは、ワインを「有機酸、アミノ酸、糖誘導体、ポリフェノール、揮発性成分などの多数の成分濃度のベクトル」として扱います(極端に言えば「何百〜何千次元の点」)。
単一品種ワイン(monovarietal wine)を多数測定し、多変量解析(PCA、PLS-DAなど)にかけると、「品種ごとに、ある程度まとまった“成分の集まり(クラスター)”が見えてくる」という結果が報告されている研究がいくつもあります。
ただし、ここで重要なのは:実際には、品種だけでなく
  • 産地
  • ヴィンテージ
  • 栽培条件
  • 醸造条件
などの影響も重なっているので、
そのクラスターは「品種+テロワール+醸造条件の合成結果としての“指紋”」である可能性が高い、という点です。
つまり、「品種ごとのクラスター」は、品種だけの純粋効果というより、品種を含む条件セットの結果として見ておくのが慎重な態度だと思います(仮説段階)。
ブレンドの成分パターンはどこに位置するか(概念モデル)
かなり単純化したモデルとして:
  • カベルネ・ソーヴィニヨンの成分ベクトルを A
  • メルロの成分ベクトルを B
としたとき、この2つを「素直に」ブレンドすれば、ブレンドの成分ベクトル C は数学的には A と B の中間(線形結合)のどこかに位置するはずだ、というイメージが持てます。
実際のワインでは、化学反応や相互作用があるので単純な加算ではありませんが、「概ね中間的な領域に来る」という概念モデルとしては許容範囲だと思います(仮説段階)。
このとき、高次元空間をイメージすると:
  • カベルネ単一のワイン群 → カベルネ・クラスター
  • メルロ単一のワイン群 → メルロ・クラスター
があるとして、
  • カベルネ80%+メルロ20% → カベルネ・クラスター寄りの中間領域
  • 50:50 ブレンド → 両クラスターの中間付近
  • いろいろな比率のブレンド → 2つのクラスターを結ぶ帯状の分布
というふうに、「単一品種クラスター同士を結ぶ“橋”のような領域」にブレンドが分布する、という絵が描けます(ここも概念モデルであり仮説段階です)。
このイメージは、
  • (A) 支配的な品種があるブレンド → 成分空間でも、その品種クラスターの「近く」に点が現れる
  • (B)(C) より対等な/均されたブレンド → 単一品種クラスターから離れた「中間領域」に点が現れやすい
という感覚的な整理とも、ある程度整合します。
感覚とメタボロミクスの「対応づけ」
かなりラフな対応づけになりますが:
  • メタボロミクス空間
    • 各ワイン:成分ベクトル
    • 品種:成分クラスターとその“中心的な位置”(典型点)
  • テイスターの感覚空間
    • 各ワイン:香り・味・構造の総合印象
    • 品種:プロトタイプ(典型像)+許容範囲
と考えると、ブレンドワインは、成分空間でも感覚空間でも、単一品種クラスター(単一品種カテゴリー)の「中間領域」に位置することが多いという仮説が自然に出てきます。
もちろん、
  • 化学成分の混合効果は非線形で、「強い香り成分が弱い香りをマスクする」などの現象がある。
  • 人間の感覚側も非線形で、ある方向に非常に強い特徴があると、それだけで知覚が支配される。
といった理由から、 単純な「成分の加重平均=感覚の加重平均」では説明しきれませんが、「ブレンドは、成分パターンの意味でも感覚パターンの意味でも、単一品種のあいだの“中間”に位置しやすい」という方向性の仮説自体は、メタボロミクスとテイスティングの双方の経験と大きく矛盾しないように思います。

質問への最終的な答え

複数品種のブレンドワインにも、「品種らしさ」は成分的にも感覚的にも生じ得ます。

ただしそれは、単一品種ワインの「品種らしさ」がそのまま残るというより、複数の品種らしさが重なった結果としての「相対的な品種らしさ」であり、どれが前面に出てくるかは、ブレンド比率・スタイル・テロワール・醸造条件、そしてテイスターの経験によって変わる──というところに落ち着くのが、今のところいちばん無理の少ない整理だと思います。

「ボルドー・ブレンド」や「ローヌ・ブレンド」といった前提情報があれば「品種らしさ」の手がかりにできるかもしれませんが、そもそもワインが単一品種なのか、複数品種をブレンドしたものなのかを香りや味わいだけで判別できるのでしょうか。

「ボルドー・ブレンド」「ローヌ・ブレンド」という前提情報がある場合

「これはボルドー・ブレンドです」「これはローヌ・ブレンドです」と言われていれば、その地域・スタイルの典型的なブレンド比率や使用品種の知識を前提に、

を「品種らしさ」の手がかりにしてテイスティングすることができます。

ただし、このときにやっているのは「香りと味わいだけで単一かブレンドかを見抜いている」のではなく、「産地・スタイルの前提情報+制度・慣行の知識から推論している」ということになります。

つまり、ボルドー・ブレンド/ローヌ・ブレンドという前提情報がある時点で、すでに「ブレンドである蓋然性が高い」と分かっているのであって、香り・味だけで単一/ブレンドを判定しているわけではありません。

完全ブラインドで「単一かブレンドか」は感覚だけで判別できるか

ここからが本題です。「一切の前提情報なし」で、香りと味わいだけを頼りにした場合です。

複数の「品種プロトタイプ」が同時に立ち上がるとき
  • 黒系果実+ピーマン(カベルネ系)
  • プラム+やわらかいタンニン(メルロ的)
が同時に強く出ていれば、「カベルネ単一」より「ボルドー・ブレンド的な構成」ではないかと推測したくなります。
香りと骨格の組み合わせが、一つの品種としては不自然に感じられるとき
  • 香りはシラー的(黒胡椒+黒系果実)だが
  • 酸・タンニン・ボディの出方が「典型的シラー」の経験値から大きく外れる
というような場合、「シラー主体のローヌ・ブレンドで、他品種が骨格を補っているのでは」と考えることがあります。
「品種のクセが薄まり、スタイル/産地の“型”だけが強く出ている」と感じるとき
個々の品種らしい尖りよりも、「ボルドー・ブレンドらしい骨格」「ローヌ・ブレンドらしい果実&スパイス感」など、スタイルとしての“型”が前面に出ているように感じられるワインもあります。
こうしたときに、「これはブレンドだろう」と判断することはありますが、逆に非常によくできた単一品種が「ボルドー・ブレンド的」「ローヌ・ブレンド的」に感じられる こともあるので、どこまでいっても「ブレンドらしさの蓋然性が高い」以上には踏み込めないというのが限界です。

メタボロミクスから見ても「絶対判定」は難しい

感覚だけでなく、成分パターンの側から見ても状況はよく似ています。

しかし、

を考えると、「この1本が単一品種か、複数品種ブレンドか」を、メタボロミクスだけで絶対判定するのは現状では難しいという意味で、人間の感覚と同じく「統計的にブレンドらしい/単一らしい群を分けられるかもしれない」レベルにとどまります(仮説段階)。

飲んだこともなく名前も知らない品種で造られたワインの品種を言い当てることはできないと思いますが、どの段階で「品種は分からない」と言うのが適切なのでしょうか。
自分が知っている品種の中から、とりあえずプロファイルが最も近い品種名を挙げた方がよいのでしょうか。

「知らない品種」はどこまで行っても当てられない

ブラインドテイスティングで品種を推定するとき、テイスターが使っているのは、

です。

言い換えると、テイスターは「自分が知っている品種リストの中から、このワインに一番近いプロファイルを選んでいる」だけです。

したがって、

ような品種について、その品種名をピンポイントで言い当てることは、現実的には不可能です。
内部モデル(記憶のライブラリ)の外にあるラベルは、そもそも候補として挙げようがないからです。

ここをはっきりさせておくと、「どこまでが分かると言えて、どこからは分からないと言うべきか」という線引きが少し整理しやすくなります。

どの段階で「品種は分からない」と言うべきか

ポイントになるのは、「蓋然性(その品種らしさの度合い)」です。

ざっくり言えば、

という判断になります。

典型的には、次のような状況では「品種は分からない」とするのが誠実です。

どのプロトタイプにもきちんと当てはまらないとき
香りや味、構造(酸・アルコール・タンニン・ボディなど)を見ても、
  • 手持ちの典型像(ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、ネッビオーロ、…)
  • どれにも「それらしい」と感じるほどフィットしない
場合です。
この状態で無理に何かの品種名を言ってしまうと、
  • 「当たる/外れる」以前に、
  • 自分の中の品種イメージをねじ曲げてしまう
ことになり、長期的にはテイスティングの精度をむしろ落とします。
この場合は素直に「手持ちの品種プロトタイプでは説明しきれない=分からない」 とする方が筋が通っています。
候補が複数あり、蓋然性が横並びのとき
たとえば赤ワインで、酸・タンニン・果実の感じから「冷涼産地のカベルネ・フラン」「やや冷涼なカベルネ・ソーヴィニヨン」「特定スタイルのメルロ」のどれにもそれなりに説明がついてしまう場合などです。
このように、
  • 2〜3の候補品種が並んでいて
  • どれか一つだけが突出して「この品種らしい」とは言い切れない
なら、「この2〜3品種のどれかまでは絞れるが、どれか一つに“分かった”と言えるほどの決め手はない」という意味で、「分からない」と結論づけるのが自然です。
もちろん訓練として「あえて一つ選ぶ」ことは有益ですが、その場合でも「○○と判断したが、△△の可能性も同程度にある」と自己認識しておくのがよいと思います。
未知品種の可能性が高いとあらかじめ分かっているとき
たとえば、
  • 土着品種の多い産地で、土着品種主体のワインと分かっている
  • その地域の主要品種をほとんど飲んだことがない
  • 造り手がマイナー品種を好んで使うことで有名
といった文脈では、「自分の知っている品種リストの外側の候補が多い」ということが事前に分かります。
このような状況で、あえて知っている品種の名前を挙げてしまうと、
  • 蓋然性が高いわけでもない仮説を「分かった」と言ってしまう
  • 読み手に「このワイン=この品種」と誤解させる
リスクの方が大きくなります。
この場合は、品種の特定はできないという立場を明示したうえで、後述のように「プロファイルが近い既知品種」を参考として添える、くらいがバランスのよい落としどころだと思います。

「とりあえず一番近い品種を挙げる」はありか?

ここは目的によって答えが変わるところです。

試験・訓練の場面では「一つ選ぶ」ことにも意味がある
WSET やソムリエ試験のように、
  • 最終的に品種名を書かなければいけない
  • 外してもよいので、思考プロセスを鍛えたい
といった場面では、蓋然性が十分でなくても、「今の自分の知識と経験の範囲で、もっとも可能性が高いと思う品種を一つ選ぶ」ことに意味があります。
このとき大事なのは、
  • 「そう選んだ理由(酸・アルコール・タンニン・香りの要素など)」をちゃんと言語化しておくこと
  • 後から答え合わせをして、「どの判断がずれていたのか」を検証することです。
つまり、結果として当たったかどうかより、「どういう蓋然性判断でその品種を選んだか」を振り返ることに価値があります。

まとめ

飲んだこともなく、イメージも持っていない品種の品種名を当てることは、現実的にはできない。

したがって、

といった状況では、「品種は分からない」と言うのが適切です。

一方で、候補の中に「この品種がもっとも蓋然性が高い」とはっきり感じられるものがある場合には、それを暫定的な答えとして一つ選び、その判断過程と結果をあとで検証すること自体が、有効な訓練になります。

「分かる/分からない」を蓋然性の問題として意識的に扱うようにすると、ブラインドテイスティングのたびに自分の判断の精度や限界を整理しやすくなり、学習そのものがずっと効率的で筋道の通ったものになっていきます。

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